21世紀の資本

  • みすず書房 (2014年12月6日発売)
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感想 : 171
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人気テレビゲームよろしく、邦訳と同時に解説本が複数出ているのを見て当初は食指が動かなかったが、結局購入。厚い、重い、高いの三拍子が見事に揃った本だが、意外に内容はシンプルで読み易い。

本書によれば、経済成長率gは実体的に決まり低下が予想される一方、資本収益率rは時間的選考性により心理的に決まるので、不等式r>gが恒常的に成立し、資本家は常にプラスの貯蓄を蓄積できてしまう。またテクノロジーの発達により今後も資本と労働の代替性が高まるのだとすれば、資本の限界効用が増え所得の資本シェアも増大していくから、資本の所有者は労働への分配を相対的に増やす必要がないまま所得の一部を貯蓄に回せることになる。これが動学法則β=s/gを通じてさらなる資本蓄積の集中につながっていく。

著者の主張を受け入れるとすれば、このまま行けば21世紀は益々「ネットの資本収益率が先に決まる」社会になるということになりそうだ。外的要因にさほど影響されることなく資本所有者がまず自らの取り分を決め、それから労働その他の生産要素への配分が事後的に行われる。エクイティ利回りにとってリスクフリーレートという参照点が何の意味もなさなくなるということだ。

ただその前提である「土地や株などの安定的資本の長期的な収益率rは概ね5%」の根拠は若干曖昧に思えてならない。いくら著者が収集したデータが膨大とはいえ、そこから18・19世紀の土地の収益率がそんなに簡単に求まるのだろうか。また確かに5%という数字には直感的な納得感はあるが、時間的選好に関する効用関数が長期的に一定だとする根拠は乏しいように思える。実際、著者の集計にもあるように直近の先進国における資本収益率は4%に近づいているし、投資機会の競合でr-gがさらに減少する可能性は相当にあるような気がするのだが…。資本労働代替性が収益率低下をオフセットして、数量効果が価格効果を上回ることを示すような実証性あるデータは、少なくともここでは示されてはいない。

なお、著者が公的債務の増大それ自体はさほどの問題でないと考えている点は興味深い。純資産に対する累進課税による税収を公的債務の償還に充てれば、資本蓄積の不平等も解消できて一石二鳥というわけだ。現実的にそういう政治的コンセンサスが得られるかどうかは別として。

と、様々な論議を呼びそうな内容だが、兎にも角にも20世紀後半の世界が歴史的に如何に特殊な世界であったか、そして(著者の言うほどに極端かどうかは別としても)資本が支配する来るべき世界にどのように身構えるべきかを本書は教えてくれる。また何よりも、戦後の資本破壊からのキャッチアップでしかなかった高度成長のアノマリーを長期的な前提とすることの愚かしさを理解できるだけでも、十分に読む価値のある本だと思う。経済学はプラグマティックであるべしとする著者のスタンスにも共感が持てた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 経済学
感想投稿日 : 2015年1月12日
読了日 : 2015年1月12日
本棚登録日 : 2014年12月29日

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