三年ぶりの新作。
プロローグで明かされる“五番目の女”。なるほどそういう話なのかと了解するも、コトはそう単純ではないことを早々に思い知らされる。
捜査に忙殺されるヴァランダー。父を亡くした喪失感、手掛かりゼロの焦燥感、その合間に将来のプランを空想しては、新たな被害者の出現に絶望を感じてひたすら沈み込む。このヒロイックとは縁遠い主人公に、シリーズ特有の頑固さや堅実さがよく表れていると思う。脇を固める捜査官たちも等身大で人間臭い。プロフェッショナルのいない小さなチームだが、役割分担に長け実に手際が良い。「少数でこれだけ機能している捜査陣とは一緒に働いたことがない」とは、応援に来た捜査員の台詞。
突破口はおろか手掛かりさえ掴めない難関な事件は、バラバラの点が線につながるのか予測も出来ない。ゼロの地点から、集まった少ない手掛かりに対し、角度を変え想像力を働かせ事件の骨格を見出そうとする。そこに偶然の証拠や証人は存在しない。寝る時間を削って歩き聞き、信念と執念を持って追いつめたチームワークの勝利である。そして冒頭のタイトルの意味に帰結する。これこそまさに警察小説の真髄。
読後は余韻が後を引き、じわじわと感情の奥底に沁みこんでくる。いいミステリとはそういうもの。特にこのシリーズは考えさせられることが多い。国や地域の抱える問題が常にストーリーとリンクしているので、北欧ミステリはただの謎解きでは終わらない。エンタメ性に傾斜することもなく、真摯で奥が深く、そして仄暗い。捜査の終焉にある種の脱力を感じながら、一方でどことなく身を引き締めてくれる、私にとっては唯一無二のシリーズなのである。
- 感想投稿日 : 2011年7月7日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2011年7月7日
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