文鳥・夢十夜 (新潮文庫)

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感想 : 491

夏目漱石の短編も読んでみたいなぁと思いこちらの本を。
これはエッセイといってもいいくらい実話をもとにした話が多く、漱石の人柄が感じられてよかった。
漱石は胃潰瘍を患い50歳の若さで生涯を終えた。どんなときも、どんな出来事も小説として昇華してしまえるのはさすがだなぁ。
細かな機敏も丁寧に描かれており、日常の些細な出来事にも心を動かされながら生きているんだよなぁってしみじみとさせられる素敵な作品ばかりだった。

「文鳥」
人の勧めで文鳥を飼うことになり、不器用ながらも可愛がっていたのだが、執筆の仕事が忙しく世話が行き届かずに死なせてしまった話。不器用ながらも必死に育てる姿は愛おしく、文鳥の死を責任転嫁しなければ受け入れられなかったほど悲しみ愛していたのだなぁと思った。

「夢十夜」
「こんな夢を見た」という書き出しから始まる十個の夢の話。それぞれ独立した話だが、どれも幻想的で少し不気味な雰囲気が漂う。読むと、自分の中に眠っている潜在意識を呼び覚まされるように、不思議な世界に引き込まれる。話に余白がある分いろんな解釈ができそう。美しく幻想的な第一夜が好きかな。
 
「永日小品」
日常の風景を切り取ったような、ごく短い作品の詰め合わせ。とくにオチもなくサラッと終わる。漱石が日々感じたり考えたりしていることを垣間見られてよかった。人生って他愛ないことの積み重ねなんだよね。

「思い出す事など」
漱石が胃潰瘍で大吐血し生死を彷徨ったときの話。一命を取り留めた漱石のもとへ、周囲の人たちが見舞いに来てくれたり、知人の死を知ったりしたときに、彼が感じたこと、考えたことが綴られている。当時の寿命から考えると現代の医学の進歩を思うとともに、なによりも人の温もりが感じられた。

「ケーベル先生」
漱石はこのケーベル先生が好きだったんだなぁ。戦争の影響か、長年日本に留まり教授を続けるケーベル先生。漱石から見たケーベル先生の暮らしが綴られる。自分の好きなことや信念を大切にしながらも、他者への関心も持ち関わりを楽しんでいるところが素敵だなぁと思った。

「変な音」
入院したときの隣の部屋から聞こえる「変な音」の話。大根をするような音だと思っていたが、再度入院したときに音の正体を知る。逆に隣の部屋の患者は、こちらの変な音を運動器具の音だと思っていたが…。そのときの心身の状況によって、物音も違って聞こえるのだろうな。

「手紙」
ある夫婦(漱石?)が身内のような青年重吉に結婚の世話をしてやるが、偶然滞在していた旅館の引き出しから玄人の女性からの恋文が出てきて…。真面目な青年かと思いきや、人間は見た目では判断できないね。漱石の厳しくも優しい計らいも、重吉の銭の支払いが減っていったのは、人間そう簡単に変われるものじゃないってことかな。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年9月19日
読了日 : 2023年9月13日
本棚登録日 : 2023年9月4日

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