実践 行動経済学

  • 日経BP (2009年7月9日発売)
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邦題は『実践 行動経済学』となっているが、原題の直訳は『ナッジ:健康・福祉・幸福に関する決定を改善する』であり、大きなコストをかけず選択の自由を残しながら公共の福祉を改善するための仕組み・仕掛けであるナッジ理論について一般向けに解説した一冊である(原著の出版は2008年、その後2017年にこうした行動経済学の業績が認められ、リチャード・セイラーはノーベル経済学賞を受賞している)。

一流の専門家が一般向け書籍ということもあり非常に平易かつところどころにアメリカンジョークを挟みながら解説する行動経済学、特にナッジ理論の解説を行ってくれる本だけあり、類書の中でも非常に優れた一冊である、という印象を受けた。

特に本書においては、医療サービス、携帯電話の料金プラン、住宅ローンなどはあまりにも複雑化しすぎており、様々なナッジ理論のアプローチによって、情報をシンプルに提示する、不必要な選択肢をデフォルト化によって削減する意義はますます高まっている、ということが主張される。言うまでもなく、アメリカにおける住宅ローンの複雑性、つまりそれは十分な金融リテラシーを受けずに融資を受ける低所得者層だけではなく、住宅ローンの証券化によってそのリスクが見えなくなってしまった金融業界のスペシャリストも含めてということだが、その複雑性がもたらしたサブプライム問題と世界恐慌の例を踏まえれば、いかに複雑性を減らすか、という点が極めて重要なイシューである、ということは当然の結論であるように感じられる。

ということで、行動経済学の基礎とそこから導き出されたナッジ理論の現実的な応用可能性を知るための最初の一冊として推奨できる良書であった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 政治・経済
感想投稿日 : 2021年5月9日
読了日 : 2021年5月9日
本棚登録日 : 2021年5月9日

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