高安犬物語 (戸川幸夫動物物語 1)

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  • 国土社 (2008年12月1日発売)
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高安犬(こうやすいぬ)とは、かつて山形県東置賜郡高畠町の高安地区で繁殖していた日本犬の一種。中型だが犬張子を思わせるガッチリした体型で、雪山を幾日もさ迷い歩く我慢強さと、熊にも立ち向かう逞しさを持ち、番犬や熊猟犬として多く使われていたが、昭和初期に絶滅したという。
戸川幸夫氏の初めての小説作品であり、直木賞受賞作となった『高安犬物語』は、おそらく純粋な高安犬の最後の1頭であろう雄犬「チン」の姿を描いた作品である。

昭和の初め頃になると、高安犬の本場の高安付近でさえ、純粋な高安犬を見ることはできなくなっていた。
山形高等学校(現在の山形大学)在学中、学友の影響からこの犬について知った“わたし”は、「滅びてゆく種族をなんとか残したい」という願いから、山形市を中心に日本犬の情報を求めて調査を始め、とうとう県内の日本犬名簿を作りあげるまでになった。
やがて“わたし”のもとに集まる情報のなかに、山形と福島の県境に近い山間の村に、「いい地犬(高安犬)がいる」という話があった。それが“わたし”と「チン」の、出会いとなる。
吉蔵という気難し屋のマタギが飼っていた「チン」。どうにかその写真だけでも撮ろうと、“わたし”は吉蔵と交流をはじめる。
荒々しい自然の中で生まれ育ち、鍛えられた吉蔵と、その彼が育て鍛えた「チン」。時に大猿と知恵比べし、時に熊鷹と獲物を奪い合い、熊に食らいついて格闘する。強く賢く、優しい。吉蔵と「チン」の物語に夢中になる“わたし”だが、優秀な猟犬にも、避けがたい老いと病が忍び寄っていた――。

“わたし”こと戸川氏と、日本犬の保存に尽力する人々、マタギの吉蔵さんと、彼の最後の高安犬「チン」との最期の日々を描く表題作のほか、北海道のクジラ獲り漁師と、当番クジラと呼ばれる絶対に捕まらない大物クジラとの死闘、廃れていく中小規模船の捕鯨に携わる父と息子の葛藤を描く『火の帯』2篇を収録。
明治、大正、昭和と近代化・国際化が進む中、動植物は多くの日本固有の種が滅び、古来からある多くの人の生業もまた廃れていった。『爪王』では老いた鷹匠が、鷹で猟を行い毛皮を売る家業は自分が最後と覚悟していた。滅びを避けられない生き物や風俗への、戸川氏の深い観察と興味、記録への一貫した情熱を感じる動物文学短編集。

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感想投稿日 : 2021年8月1日
本棚登録日 : 2021年8月1日

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