夏目漱石を読むときには、当時の明治の時代背景を重ね合わせながら、
その時代に生きる人々の思いを知ろうとする。
「門」についていえば、京大出の官僚で、ある意味では社会の成功者であるはずの主人公の宗助が、混沌とした社会の荒波に敢えて波風立てず、妻の御米と寄り添いながら生きていく。その時代とは?
ただし、彼の精神は不安定であり、決して満足しない。宗教(座禅)への傾倒も試みるも、その精神を満たすことにはならない。
御米(妻)は親友の安井の前妻であり、その裏切りに悩みながらも、その安井は冒険者として新しい生き方を探し求めており(それもまた新時代の生き方)、宗助は、その生き方も気になる。混沌とした時代に冒険する側とそれを傍観する側のコントラス。
また、大家の坂井は旧幕時代から続く裕福な家庭で、ある意味では旧体制のノスタルジーを醸し出す。
叔父や実弟との関係は血縁関係が希薄になる世相を示し、子供ができない御米との関係もそれを暗示する。
最後は、御米と二人の世界に閉じこむことになるのだが、御米に全ての心を開くわけでなく、どこかで個人主義的な生き方となり、明治の時代に生きることの難しさを伝えようとしているのだろうか。
ストーリーとしては淡々と進むのだが、夏目漱石の表現力が、ストーリーをうまく脚色しており、その技量の素晴らしさに感嘆させられる。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2012年2月12日
- 読了日 : 2012年2月12日
- 本棚登録日 : 2012年2月12日
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コメント 1件
藤首 亮さんのコメント
2019/05/11