カラマーゾフの兄弟〈中〉 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1978年7月20日発売)
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【大雑把な粗筋】※登場人物の生死に関わる内容も書いていますので未読の方はご注意ください。

イワンお兄ちゃんは、異母弟かもしれない召使いのスメルジャコフくんから「明日辺りに大変な事件が起こるかもしれませんねえ、例えばミーチャさんがフュードル旦那様を襲いに来るとか?」とか言われるが、敢えてそれを無視してモスクワに旅立ったんだ。
その後はスメルジャコフくんが仄めかした通りに事が運んで行くではないか。このまま事件が起きるのか?!…と読者がドキドキしたところで、話がガラッと変わった。

アリョーシャくんは死の床にあるゾシマ長老の元に駆けつける。ゾシマ長老は自らの半生を語り、彼を愛する者たちと語らい合った。
でもゾシマ長老が亡くなった後、アリョーシャくんをひどく傷付ける出来事があった。信仰に揺らぎが出たアリョーシャくんは、ほとんどやけっぱちでグルーシェ二カちゃんの家を訪ねる。
以前からグルーシェ二カちゃんは純粋なアリョーシャくんを誘惑しようとしているって噂だった。でもグルーシェニカちゃんもこの時重要な決断に迫られていた。かつて自分を誘惑して捨てた元カレから復縁連絡が来ていたのだ。
そんな迷いの状態にあったアリョーシャくんとグルーシェンカちゃんの初対面は思いの外うまくいった。お互いの誠実さを感じ、お互いを尊敬し、それぞれがその時持っていた迷いへの道を決めることができた。

そのころミーチャお兄ちゃんは、焦りに焦って焦りまくっていた。
カテリーナさんとの婚約破棄するためには、自分が使い込んだ彼女の三千ルーブルを返さないといけない!と思い込んでいたんだ(←いや、思い込むも何も、返そうよ)。でも今無一文!どこからかお金を入手しないと!あっちこっち駆け回る、飛び回る、もう判断がおかしくなってる。
それと同時に心配事も増すばかり。もしもフョードル親父がグルーシェンカちゃんと結婚なんてことになったらどうしよう?!確かめるためにフョードルお父ちゃんの家に忍び込んだ。にっくい親父の顔を見た。そしてうっかり召使いのグレゴーリイさんと鉢合わせになり、怪我を負わせてしまった。


次にミーチャお兄ちゃんが人々の前に現れた時には、血にまみれた手に大金を握っていた。さっきまでは「カネがない!このままでは破滅だ!」と言っていたミーチャお兄ちゃんは、グルーシェニカちゃんへの焦燥感や、グレゴーリイさんを殺してしまったかもしれないという罪悪感で躁状態になり、カテリーナさんに返すわけでもなくその大金をバラ撒きそのままのテンションでグルーシェ二カちゃんを追いかけて行った。
グルーシェンカちゃんに追いついたミーチャお兄ちゃんは、「グルーシェニカが元カレを選ぶんならおれは身を引くぜ」と宣言し、その姿はついにグルーシェニカちゃんの心を捉えた。
え、求愛にOKが出た?突然の希望、突然の絶望、何が何だか分からない、未来はないが今はある。ミーチャお兄ちゃんはさらに馬鹿騒ぎ、大騒ぎ、血まみれの手で大金をばらまく。

そんなミーチャお兄ちゃんの元に、官吏、予審調査官、警官たちが現れて告げる。
「あなたをご尊父フョードル・パーヴロウィチ・カラマーゾフ殺害事件の容疑者として尋問いたします」
え?ミーチャお兄ちゃんは不思議に思う。フョードル親父がどうしたって?おれがヤッちまったかもしれないのは、グレゴーリイじいさんだぜ?


【ロシア人名を覚えるための自己流三原則】
①個人名(洗礼名)+父称+名字
 フョードルお父ちゃんの息子たちの父称は、フョードルの息子という意味の「フョードロウィチ」。
②愛称や名前の縮小がある。
 アレクセイ⇒アリョーシャ、リョーシェンカ、など。
③名前も名字も、男性名と女性名がある。
 男性名だとアレクサンダー、女性名だとアレクサンドラになる。
 男性姓だとカレーニン、女性姓だとカレーニナになる。
 母はスメルジャーシチャヤで、息子はスメルジャコフになる。


一人の人間に対していろいろな呼びかけが出てきますが、お互いの立場や親しさにより変わります。
 ●愛称によりお互いの立場や親しさが分かるようです:
 アレクセイ⇒アリョーシャ(一般的な愛称)、リョーシェチカ(ミーチャお兄ちゃんが呼んでいたので、目下を可愛がる?)、アリョーシカ(卑称的な愛称らしい)、アリョーシェチカ(グルーシェニカちゃんが呼ぶので甘ったれたニュアンス?)
 ●名前+父称は畏まった呼び方⇒カテリーナ・イワーノヴナ(彼女は名字が不明です)
 ●名字は一般的な呼び方⇒カラマーゾフ


【人物紹介と、もうちょっと詳しいお話】
❐フョードル・パーヴロヴィチ・カラマーゾフ
カラマーゾフのお父ちゃん。俗物的な田舎地主。長男のミーチャとは、お金と女性とのことで争っている。
この中巻の後半で、撲殺されたことが語られる。

❐ドミートリイ・フョードロウィチ・カラマーゾフ(愛称ミーチャ)
 フョードルお父ちゃんの長男。
愛称:ミーチャ(一般的な愛称)、ミーチカ(フュードルお父ちゃんの呼び方)、ミーチュニカ(イワンお兄ちゃん、グルーシェ二カちゃんの呼び方)
「カラマーゾフの兄弟」中巻の「第八編」は、「ミーチャ」という題名で、彼の性質と行動が書かれる。
もともと自分には、引き継ぐべき莫大な財産があると思って育っていたミーチャお兄ちゃんは後先考えずにどんちゃん騒ぎをやらかすという生活を送っていた。しかし子供のように無邪気で純粋で(要するにお坊ちゃま)、地元のお百姓からは「そりゃ、確かに旦那は怒りっぽいけれど、その正直さに免じて神様が赦してくださいますとも」と言われるくらいには親しみを持たれている。


判事や警官たちからフョードルお父ちゃんの殺人容疑者として尋問されるが、余計なことばっかり言って肝心なことは言わずに、最悪の証言を繰り広げる。
証拠も状況もミーチャお兄ちゃんに不利なことばかりで正式に連行されることになった。それに対してのミーチャお兄ちゃんは、「自分のような支離滅裂な人間には、運命の一撃が必要だった。僕は刑を受け入れます。しかしそれはフョードル親父を殺したいと思ったからであり、実際に殺したからではありません」と言う。

❐イワン・フョードロウィチ・カラマーゾフ(愛称:ワーネチカ)
 フョードルお父ちゃんの次男。
中巻の冒頭は、イワンお兄ちゃんが異母弟かもしれない召使いのスメルジャコフくんに苛立っている場面から始まる。スメルジャコフくんはから不吉な予言をされるが敢えてそれを無視してモスクワに旅立っていった。

❐アレクセイ・フョードロウィチ・カラマーゾフ(愛称:アリョーシャ)
 フョードルお父ちゃんの三男。
愛称:アリョーシャ(一般的な愛称)、リョーシェチカ(ミーチャお兄ちゃんの呼び方)、アリョーシカ(卑称的な愛称らしい)、アリョーシェチカ(グルーシェニカちゃんが呼ぶので甘ったれたニュアンス?)
ロシア正教会のゾシマ長老を尊敬して修道者見習いとなっている。だがゾシマ長老が亡くなり、アリョーシャくんの信仰心を揺るがす事が起きた。
しかしグルーシェニカちゃんとの出会いや、自分でも考えを深めたことにより、改めて自分の信仰を築く。そして現世での経験を積むために修道院を出るのだった。

❐スメルジャコフ(本名パーヴェル・フョードロウィチ・スメルジャコフ)
 カラマーゾフ家の召使い。フョードルお父ちゃんの私生児だと言われている。
思考は落ち着かず支離滅裂で、わざとらしい癲癇持ちだし、意味ありげなことを仄めかしてくるし、裏で人と人との関係をグチャグチャにしているし、とにかくこんな人がいたら不安で嫌な気持ちになるような男。
後半でフョードルお父ちゃん殺人容疑で尋問されたミーチャお兄ちゃんは、「たしかにスメルジャコフにも実行できただろうが、あいつは卑しい根性の腑抜け野郎で頭も弱い。殺人なんてとてもできない」と断言する。相当馬鹿にされているが、本当に馬鹿なのか、なんか裏工作しているのかは不明。

❐カテリーナ・イワーノヴナ(愛称:カーチェニカ、カーチカ)
 ミーチャお兄ちゃんの婚約者の美人で気位の高いお嬢さん。

❐グルーシェニカ(アグラフェーナ・アレクサンドロエヴナ。気取って呼ぶとアグリッピーナになる)
 ミーチャお兄ちゃんとフョードル父ちゃんが取り合っている女の人。23歳。
この中巻では、彼女の過去が語られる。
グルーシェ二カちゃんは、5年前にポーランド人将校に誘惑されてついていったけれど、結局騙されて捨てられてしまった。老人の商人サムソーノフに拾われて、この5年間で美しく賢く一人で生きる知恵も財産も身につけた。世間からは金持ち老人の愛人だとか、他にも何人もの情人がいるとか言われているけれど、本当はもっと自分の欲望に正直に、でも着実に生きている…なかなかやるなグルーシェ二カちゃん。
そんなグルーシェ二カちゃんのところに、元カレのポーランド人将校から復縁の手紙が来る。酷い男!でも彼のことはずっと気になっていた!腕に飛び込むべき?ひっぱたいてやるべき?こんなに美しく賢くなった自分を見せつけてやるべき?
とりあえず逢い引き場所には行ったが、数年ぶりに会った彼にびっくりした。こんな男だっけ?私が惚れたのは、こんなズルくてダサくてセコくてエラソーなこの男だったの?
そんなところにミーチャお兄ちゃんが息せき切って飛び込んできて、もしあなた達が幸せなら自分は身を引く、と、それだけを言いに来たから彼について行くと決めた。
その後判事や警官が、フョードルお父ちゃんが殺されたことと、ミーチャお兄ちゃんが容疑者だと伝えに来たけれど、もしミーチャが罪を犯したなら自分が原因であり、だから自分は彼に寄り添うと告げるのだった。

❐グリゴーリイ・ワシーリエウィチ・クトゥゾフ、妻マルファ・イグナーチエヴナ
 カラマーゾフ家の召使い老夫婦で、フョードルお父ちゃんから見捨てられた三兄弟とスメルジャコフの育て親。
フョードルお父ちゃんの屋敷から出てくるミーチャお兄ちゃんと遭遇して「ついに親を殺したか!」と確信する。

❐ジノーヴィイ・ゾシマ長老
 ロシア正教会の長老。人々に尊敬されている。中巻の前半は、死の床にあるゾシマ長老の半生が書かれている。

❐ホフラコワ夫人、娘のリーズ(リザベッタのフランス風愛称)
 お喋り好き世話焼きゴシップ好き上流階級のご婦人と、車椅子の娘さん。

❐商人サムソーノフ
 グルーシェンカちゃんを愛人にしている老人…だと思っていたら、グルーシェンカちゃんに商売を教えた保護者のような人だった。

❐ラキーチン(砕けて呼ぶとラキートカ。本名はミハイル・オーシポウィチ・ラキーチン)
 アリョーシャくんの友人なんだが、今回グルーシェンカちゃんからお金をもらってアリョーシャくんを彼女の元につれてゆく役割を請け負い、友達を売ったことを知られてしまった。

❐ムッシャローウィチ
 グルーシェニカちゃんを誘惑しながらもポイ捨てし、お金持ちの女性と結婚したポーランド人将校。妻とは離婚してお金がなくなったので、グルーシェニカがお金持ちになったと聞いてたかってくる。無一文なのに偉そう。不誠実なのに偉そう。

❐ピョートル・イリイチ・ペルホーチン
 若い官吏。ミーチャお兄ちゃんの尋常ではない様相を見て、なにか事件を予感する。このあとで出世するようだ。

❐ミーチャお兄ちゃんが逮捕された場に居合わせた人たち
・ビョートル・フォミーチ・カルガーノフ
 ミーチャお兄ちゃんの遠縁のミウーソフ氏が面倒を見ている学生。アリョーシャの友人。グルーシェンカちゃんとポーランド将校再会の場にいて、ミーチャお兄ちゃんの大騒ぎを最初は楽しんだけど嫌になってしまった。
ミーチャお兄ちゃんが連行されるのを見て、彼が犯人だと確信し、その事実はカルガーノフくんを絶望させた。はたして人間はそんな罪を犯したあとも人間でいられるのだろうか?こんなひどいことが起こるこの世とは、生きることに値するのだろうか?
・マクシーモフ
 地主の老人
・トリフォン
 田舎宿屋の旦那。この宿屋でミーチャお兄ちゃんたちの騒動や逮捕が起きる。

❐ミーチャお兄ちゃんの尋問に来た人たち
 ・警察署長:ミハイル・マカーロウィチ・マカーロフ
 ・予審調査官:ニコライ・パルフェーノウィチ・ネリュードフ
 ・検事:イッポリート・キリーロウィチ
 ・医者:ワルヴィンスキー

❐わたし
「カラマーゾフの兄弟」の語り手だが、いくつかの場面には居合わせたようだし、妙にカラマーゾフ事情に詳しいので、同じ村の住人なのだろうか?

【ゾシマ長老のお話】
中巻の序盤はゾシマ長老の半生と神について語られる。
ジノーヴィイ・ゾシマ少年が8歳の時に、兄マルケルがなくなった。17歳だった。
マルケル兄さんはそれまでは無感動無関心無神論者であったのだが、死が近づくとこの世の美しさを感じるようになった。全てに感謝して全てに奉仕したいと思い、それらをどうして愛してよいかわからない、それなら人間は愛し方がわからない罪深い存在でもよいだろう、そしてお互いを赦し会えるのだろうといい、身体は未だこの世に有りながら、心は天国にあるようだった。
その後ゾシマ少年はすっかり俗物として育っていったが、ある出来事がきっかけで突然目の前が啓けた。
人は全て対して罪がある。それを理解さえすれば楽園が生まれる。
あらゆる者に自分の罪なき血を捧げたイエス・キリストがいなければ、人間は最後まで滅ぼし合うだろう。
現実の傲慢や嫉妬や出世や美食を見る人々は、孤独になっている。それよりも、啓蒙と慈悲に喜びを見出すようになれば人は広い世界を識ることができるだろう。
信仰を持つ者が自分だけになっても考えを広める努力をして、感謝をするのだ。大地に流した涙でいつか芽が吹くだろう。
修道院に入る直前のゾシマ青年を訪ねた男がいた。誰も知らない自分自身の犯罪を告白すべきか?告白すると自分の妻子は苦しむだろう。しかし恐ろしい犯罪を隠している自分にはその妻子を愛する資格などあるのだろうか。
ゾシマ青年は「告白するべきだ、最後に残るのは真実であり、今はお子さんと別れてもきっとわかってくれる」という。(このあたりちょっと「罪と罰」に似ている)
この出来事もゾシマの信仰心を裏付けるのだった。

【時代背景?】
イワンお兄ちゃんは上巻で、スメルジャコフを「彼は先触れのようなもので、その考えが広まり洗練されてゆけば民衆が変わってゆく」とかそんな事を言っていた。
ゾシマ長老は「ロシアの救いは民衆にかかっている。そしてロシア教会は民衆とともにあった」といいます。
ロシアが皇帝から民衆の時代に移りつつあった時代なのかな。

【蜘蛛の糸?!】
グルーシェニカちゃんが語るお話に、芥川龍之介の蜘蛛の糸っぽい話があった。
根性曲がりで意地悪女が死んで、火の池に落ちた。守護天使は彼女を救おうとして、彼女の生前のたった一つの善行「乞食に畑から葱を抜いて与えてやりました」を伝える。すると神様は「それでは火の池の彼女に、一本の葱を差し伸べてやりなさい。それにつかまって上がってこられれば、天国に入れてやりなさい」といった。
…オチは蜘蛛の糸と同じです。

「蜘蛛の糸」の元のお話は、アメリカ人宗教研究家が書いた仏教学の一作品だということ。
仏教にもキリスト教にも、同じような話は伝わる、結局人間の根本は同じなのだなと思う。

下巻に続きます。
https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4102010122#comment

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ●露西亜文学
感想投稿日 : 2020年9月16日
読了日 : 2020年9月16日
本棚登録日 : 2020年9月16日

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