償い

著者 :
  • 幻冬舎 (2001年7月1日発売)
3.36
  • (4)
  • (20)
  • (35)
  • (5)
  • (0)
本棚登録 : 130
感想 : 24
5

大学病院に勤め、出世レースの真っただ中にいた『日高英介』は、家庭を顧みることなく仕事に没頭していたあげく息子が病死し、妻が自殺した。ホームレスとなった日高は、かつて幼児を助けた町で火事に遭遇し警察の取り調べを受けることとなる。一風変わった老刑事と知りあいになった日高は、この町で多発する事件にかかわるうちに、13年前自分が助けた少年と再会する。



以降、内容に触れます


何か過去のありそうな野宿者の男が火事遭遇するところから話は始まります。まだ数十ページを読んだだけですが、「これは面白そうだぞ」と直感しました。そしてそれは裏切られることなく、ぐいぐいと読み進めていけました。やはり登場人物に魅力があると違いますね。
自分の子より患者を優先した結果息子が病死し、不用意に責めた妻が自殺してしまう。しかも、命を救った患者が結果的に酷い障害を患うことになった現実に打ちのめされ生活を、個人を捨てた男が、かつて医者として一度だけ無償で助けた少年『草薙真人(まこと)』と再会する。他人の鳴き声が(心の)聞こえるという真人は「不幸な生なら死んだ方が幸せだ」と主張するものの優秀な好少年で、日高が思うように二人のシーンはとても温かでした。なので一層芽生えた疑念が当たらないように願ったくらいです。真人もだけど、日高の心情を思うとやるせなくなっちゃうから・・
結局のところ、最悪の想像は外されましたが、真っ白という訳でもなく・・まあ罪に問われるとしたら友人の一件だろうけどそれも曖昧な書かれ方だしね。
過去に性犯罪の被害者になりかけ、命は助けた(助けられた)のもも、事件の影響で家族の状況は悪化し、お母さんは精神を病んでしまってるし・・ほんと切ない。彼らが悪い訳ではないのに、ちょっとした落ち度はあったかもしれないけど、責められるべきようなことではないはずなのに、被害者及び家族の人生が狂わされるのは、ほんとうにやるせないです。
「どんな人であっても、不幸の真っただ中で死ぬなんて、そんな悲しいことさせちゃいけないよ」「生きることが償いだ」一度自分を殺してしまった日高の言うことだからより響きます。この再会が前へと進むためのものになったのが救いです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 2020
感想投稿日 : 2010年5月28日
読了日 : 2010年5月28日
本棚登録日 : 2010年5月28日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする