ノルウェイの森 下 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2004年9月15日発売)
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本棚登録 : 44913
感想 : 2875
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私は村上春樹の著書を読んだことがなかった。それでもなぜ『ノルウェイの森』から読もうと思ったのか、理由は”おすすめされなかったから”だ。
たくさんある著書の中からおすすめするとき、とりわけ万人受けするものを選ぶと思う。しかし私は村上春樹がなぜこんなに人の心を動かしているのか、その尖ったところを知りたかったのである。簡単に言うと読むなと言われたら読みたくなるのが人の心理である。

読み終わって感じるのは評判通りのどうしようもない「喪失感」だ。そして心に何か引っかかっているというモヤモヤした読後感を得た。
直子は章の切れ目で突然死ぬ。そして直子がなぜ自殺したかの詳細な種明かしもされないのだ。もっとも、この物語はワタナベの主観のみで綴られているものであるため、彼が知りえないところは私たちも知ることができないのだ。ここに読後の釈然としなさの原因が宿っている。私たちは物語を俯瞰して客観的に読んでいるようで、ワタナベにしかなれないのだ。もちろん彼が目にする事象や心に抱く心象から二次的に分析はできるが、いろんな形をしているはずの世界が平面的にしかとらえることができないのである。そのため深い没入とワタナベが抱くやるせなさを存分に味わうことができるのだと思う。
永沢やワタナベの「他人に理解してもらわなくてかまわない」という考えは誰にでもあるのだと思う。他人はあくまで他人であり、自分がどれだけ努力してもその人の心の中を完全に理解することはできないという思いは自分にもある。そのため永沢のように他人との関係をあくまで自分の行動の「結果」であるというような考え方ができるのがうらやましいと感じた。他人と関わりたいと思わないが、孤独を避けたいと思う気持ちの葛藤の中で誰もが生きているのだと思った。
生者より死者のほうが近い距離にいられるような気がする。これは直子が生きているときには緑を選ぼうとしたワタナベが、直子が死んでから直子のことしか考えられなくなったことから考えられる。生きている人に対しては物理的な距離で測るが、死んだ人は精神的な距離でしか測れないため時間に応じた距離で近く感じてしまうのだと思う。
何度も読み返すたびに新しい発見がありそうな本だと思った。自分が成長すればワタナベの考えにアドバイスができたりするのかなとか考えてわくわくした。いろんな人と出会っていろんな考えを蓄え、またこの本に挑もうと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文芸書
感想投稿日 : 2021年2月6日
読了日 : 2021年2月5日
本棚登録日 : 2021年1月31日

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