この世の春 下

著者 :
  • 新潮社 (2017年8月31日発売)
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感想 : 216
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下巻は正に「解決編」だった(以下、ネタバレの中枢には言及していないけど、そこから波及する結果には言及しています)。

謎は大まかなところでは解けた。もっと、藩の中枢の政治的な歪みが、事件を起こしたのかと思っていたが、政治というよりも、やはり人の心の中の欲望、恨みなどが発動したのだ。相手が権力の中枢にいるだけに、慎重に慎重に行われ、その周辺の庶民に対しては、もっと簡単に殺されたり、隠微されたりしていたことが分かった。そういう意味では何時もの宮部みゆきなのだ。

しかし、謎は100%解かれたわけではない。「真の黒幕」(386p)は、未だ影さえ現してはいないように思える。しかし石野織部は「内訌が露わになれば、北見藩の存亡にも関わりかねぬ」とここで打ち切りを宣言する。若い政治家栗木も「獅子身中の虫を殺そうとして、獅子そのものを殺してしまう羽目」は避けるべきだと同意する。不満だが、下級武士に過ぎない半十郎も「堪忍します」と同意する。(387p)思うに、現代政治家に通じる「ずるい部分」である。宮部みゆきは、そのことにはあまり嫌悪を表さない。ただ、重興は出土村で新居を構えるだろう。その時、多紀を含めた新たな事件が、過去を蒸し返さないとは限らない。もちろん、それは新たな一編が必要になる。御霊繰の術は絶えてはいない。今回は医学的にはとても科学的に物語が進んだが、宮部みゆきの時代ものらしく、そこの謎も、総ては明らかにしていないのである。蓋し、エンタメの常道であろう。

2019年2月読了

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: か行 フィクション
感想投稿日 : 2019年2月19日
読了日 : 2019年2月19日
本棚登録日 : 2019年2月19日

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