こういう乾いた恋愛ものはとても好き。語弊があるかも知れないけれど、江國香織さんの世界観とも共通するものがあるように感じた。
川上弘美さんの小説は私の場合、はまるものと世界が独特すぎてついていけないものに分かれる。この小説は完全に前者。
主人公は35歳のリリ。主婦で、夫の幸夫がローンで買ったマンションに暮らし、申し分ない生活をしている。だけど毎日が、なんとなく退屈だ。
幸夫は、リリの親友の春名と恋人関係にあり、リリもまた、マンション前の公園で知り合った9歳年下の暁と恋人関係にある。
こんなにせまい人間関係のなかで、さらにあるひとつのつながりがある。
リリはどことなく謎めいていて、感情をあまりおもてに出さない。幸夫のことを愛してはいないけれど、不満はないし、感謝はしている。春名との関係にも気づいているけれど、どちらにも何も言わない。
暁と過ごすのはとても心地よい。でもどちらかというと、深みにはまっているのは暁のほう。
春名はリリに対して申し訳なさを感じるものの、幸夫のことを愛してやまない。
幸夫は春名との身体の相性を愛おしく感じているけれど、おそらく心底で愛しているのはリリだ。
こんな世界観が、乾いた雰囲気で繰り広げられている。そんなにドラマティックではなく、淡々と日々は過ぎていくけれど、最初とは違う状況にそれぞれが変化して物語の終わりを迎える。そこからまた、変化の予感を感じさせつつ。
欲求が薄い人間(この小説の場合は主人公のリリ)はある意味とても厄介な存在だと思った。何かを選択するとき、欲がないから、先のことも深く考えず選んで進んでしまう危うさがある。
そういう風には生きられない人が大半だから、このリリという女性に嫉妬や羨望を感じてしまうのかもしれない。
主人公が魅力的な小説はとても良い、と、常々感じている。
- 感想投稿日 : 2020年8月2日
- 読了日 : 2020年8月2日
- 本棚登録日 : 2020年8月2日
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