《見知らぬ土地の話を聞くのが病的に好きだった》
『風の歌を聴け』に引き続き、またもや冒頭の一文でぐっと掴まれてしまった。村上春樹の小説の主人公のクールでニヒルな外見とは裏腹の人間的で熱い一面に「いい人じやん」となってしまう。
“僕”の元カノの出身地は「駅のプラットフォームの端から端まで犬が散歩している」くらい田舎だったが、文化人達が山の中腹に思い思いの家を建て、ある種のコロニーを形成していた。が高度経済成長期にブルドーザーで開発され都心の周りの住宅街となった。“僕”と“鼠”の出身地(おそらく神戸)は、昔は漁村だったが都市開発に伴い、漁師たちは、追いやられ、その名残で無人灯台が残る。
そんな故郷を愛していながら、そこにとどまることが出来ない若者たち。
この小説では“人”に対してだけでなく、消えゆく“物”に対する惜別も描かれている。配電盤、ピンボールなど。
時代の流れによって、押しつぶされたり、押し流されたりして、変わっていったり、なくなっていくものや土地への愛着を滲ませながら、同じように、少年から大人になる過程で自分の中で、押しつぶしたり、埋め立ててしまったものへの愛着から、逃れられない。だけど、その愛着を断ち切らねばならないことを知る、主人公たち。「どんな進歩もどんな変化も結局は崩壊の過程に過ぎない」と悟りながら。とても早熟だ。
けれど、最後の「何もかもが繰り返される」という一文で、やっぱり若いなと思う。私なんかはこの頃(自分の歴史のなかでは)「もうこれで最後だよ」と思うことが度々あるから。
- 感想投稿日 : 2022年3月9日
- 読了日 : 2022年3月9日
- 本棚登録日 : 2022年3月9日
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