小僧の神様・城の崎にて (新潮文庫)

著者 :
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感想 : 257
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男女の抜き差しならぬ状況でのやりとりのある作品が多く、そのどれもが上手だなと感じられましたし、先を読みたくなるような惹きつける力がありました。浮気モノを書くのにも手慣れている印象を受けるほどさらりと落ちついて言葉を並べています。それでもって読みながら、そりゃひどいな、とか、そりゃ困るだろう、だとか、一文単位で気持ちを揺さぶられたり転がされたりしました。作者の術中に落ちたわけです。

そういうわけで、読者を作品世界にすっぽりと誘いこむ筆力はさすがでした。それに、全18編の作品水準は実に安定していて、派手さを求める人には物足りないかもしれないですが、テンポやリズムの乱高下に見舞われることなく楽しむことができます。そうしたある種の安定下で、男女のあれこれが持ち上がる作品をいろいろと読むことになるせいか、読んでいる自分の気持ちと小説世界でうごめいている心模様が、すうっと肉薄してくるような感じがしました。

あと一言付け加えると、標題にもなっている「城の崎にて」という作品には、芥川賞をとる作品群の調子と似通っている何かを含んでいるような印象を持ちました。たとえば、芥川賞選考の基準のひとつとして、「城の崎にて」の作品感覚を重要視しているのではないか、という想像が膨らんだのです。なんていいますか、混沌としたなかでの確かな瞬間をとらえている、というような作品といえばいいでしょうか。それが、「文学的な芸術性」と言われるものなのかもしれません。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2020年11月7日
読了日 : 2020年11月7日
本棚登録日 : 2020年11月7日

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