予想以上に面白かった。小澤征爾さんと村上春樹さんがCDを音楽をかけながら、「ここは」「ここは」としゃべっているのをそのまま書き連ねている、かのように見える。これはある種、掟破りなんだけど、絶妙のト書きがはいって、くつろいだ場に同席しているよう。小澤氏からお宝ネタを引き出す村上氏のクラシック音楽に対する博識ぶり(オタクぶり)、鋭い視点は特筆ものなのだけれど、本書を比類ないものにしているのは、さりげなく置かれた表現の的確さ、すなおさが真水のようにさわやかで、さらさらゆくよ、と軽快に流れていくから。彼は「文章はリズムだ。良い耳がないとよい文章は書けない」と中に挟まるコラムで企業秘密!を明かしてくれているが、やっぱりそうなんだ。文章自体だけではなく、会話にからめるコラムのありかた、要所要所で微妙に変えるフォント(字体)までリズミカルに構成された、これはひとつのセッション、演奏なのだ。もちろん、一番の腕の見せどころは、音楽を言語化するひとつひとつの練られた言葉。音を文章であらわすことを試みるひとはみな、これを勉強しましょう、と言いたい。プロとファンの、村上氏いわく「高い壁がある」関係。しかし「通路は見つけていくことが、何より大事な作業」そのとおりなのだ、あぐらをかいてはいけない。その努力を怠ってはいけないと、肝に銘じた次第です。
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- 感想投稿日 : 2020年4月23日
- 読了日 : 2012年2月26日
- 本棚登録日 : 2020年4月23日
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