人質の朗読会

著者 :
  • 中央公論新社 (2011年2月1日発売)
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遠い異国に旅行中、ある組織に人質にされ、小屋に軟禁された挙句に死んでしまった八人の日本人たち。生い立ちも職業も異なる八人は、軟禁中に、それぞれ自身の過去について書き、それを朗読して発表するという行為をしていた。
事件解決のため仕掛けられた盗聴器が拾った八人の朗読会を、彼らの死後、一夜ずつ紐解いていく形式の連作短編集。
すでに亡き人が語っている、もう「今はないもの」というモチーフがいかにも小川洋子らしい。
語られる短編も、幼少時の鉄工員とのやりとりや、アルファベット形のビスケットの思い出、亡くなった人のためのスーツを買い揃える話、B談話室で繰り広げられる不思議な会合、などどこか郷愁を帯びた色合いで、どの短編にも物悲しいようなしっとりとした重みと美しさがある。
ああ小川洋子の物語だなぁと思う。
この短編集を読んでいると、誰にでもひとつくらいは珠玉の美しい記憶があるのだ、と思う。
小川洋子が描けば、なんということのないささいな日常がとても美しく、意味を持ってそこに生まれる。閉じられた空間の中で静かに輝く短編の連なりに、そしてその短編の先はすでに死で閉じられてしまってもう続かないというその切なさに、圧倒される。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: せつなくなる
感想投稿日 : 2011年3月24日
読了日 : 2011年3月24日
本棚登録日 : 2011年3月24日

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