雨のなまえ

著者 :
  • 光文社 (2013年10月18日発売)
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「午後から雨になるみたいですね」
こんな世間話の文底には、「雨なのか、嫌だなぁ」「降らなきゃ良いのに」「傘用意するのがめんどくさい」といったネガティブな感情がある。

雨は降るとめんどくさい。
だが、雨が降らない日が続くとそれはそれで困る。

その雨をモチーフにした短編集。

「雨のなまえ」
妊娠中の妻がいるのに浮気をしている主人公悠太郎。
同級生で資産家の娘・ちさとにとっては待望の妊娠。
母子家庭の悠太郎は、母親の男が変わるたびに引越しをする不安定な少年時代を過ごした。
悠太郎が一生分の給料を出しても買えない様な高級マンションを、娘の妊娠と同時に買い与える義父母。

「記録的短時間大雨情報」
痴呆が始まったと思われる義母との同居がはじまる。夫はまったくの無関心。一人息子の教育費のためにパートに出た先で出会ってしまった大学生。
自分の名前ではなく「作哉くんのお母さん」となってしまう日常。
その中で澱のようにたまっていく抑え切れない感情。

「雷放電」
「一人の人間に割り当てられた幸せの量があるとして、自分はもうそれを使い果たしてしてしまったのではないかと思う」
「こんなに美しい女が自分の妻になるなんて夢みたいだ。おれは毎日、何度でもそう思う」

「ゆきひら」
中学校教師の臼井には、中学時代の同級生ユキとの悔やんでも悔やみきれない過去があった。妻の戸紀子にはそれは話していない。それは戸紀子のなかの秘密を確かめるのが怖かったから。そして教師の仕事にのめりこむことで、そこから逃げていたのだ。

「あたたかい雨の降水過程」
「おまえの言葉は刃物みたいに人を傷つける」別居している夫から言われた繭子。シングルマザーとして必死に働き子育てに奮闘するが、思うように行かない毎日が続く。
「仕事と子育てだけしていたかった。そうしたくて、夫と離れた」のに。


心の奥底に眠っている自分でも気づかない感情に気づかされる5つの短編。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2018年1月8日
読了日 : 2018年1月7日
本棚登録日 : 2018年1月8日

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