三鬼 三島屋変調百物語四之続

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  • 日本経済新聞出版 (2016年12月10日発売)
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今日も三島屋に客が訪れてくる。
だが、買い物のためではない。

黒白の間を訪ねてくる。
だが、主人の囲碁の仲間ではない。

言うに言われぬ話を抱えてやってくる。
語る相手は、主人の姪っ子おちか。

語って語り捨て。聞いて聞き捨て。

それだけが約定である。

「人は語りたがる。己の話を。
 だがそれは時に、その人生の一端に染みついて離れぬ何かを他者に見せることにほかならぬ。多くの耳に触れ回りたくはない。しかし一度は口に出して吐き出してしまわねば。その何かを墓の下に持って行くのはどうにも辛い。その何かが、いざとなったら墓石の下に収まらないかもしれぬという不安が胸を塞ぐ。
 だから、三島屋の変わり百物語は人を集める」(序 P6)

「あの世から戻ってきた死人は、この旅籠の外に出られないのだ。生きていたときと同じようにふるまうことはできないのだ。
 それが、死ぬということなのだ」(第一話 迷いの旅籠 P140)

「人の心は面白いもので、どんな贅沢よりも素朴な温もりが染みることもある」(第二話 食客ひだる神 P257)

「弱い者いじめは世の常だ。上士なら平士へ。金持ちなら貧乏人へ。男なら女へ。大人なら子供へ。
 やるせなく煮えたぎるばかりの怒りや、身を腐らせる倦怠をいっとき忘れるために、人は弱い者を打ち、いたぶり、嘲る。
 その瞬間に、人でなしに堕ちるのに」(第三話 三鬼 P320)

「鬼は、人から真実を引き出す」(第三話 三鬼 P413)

「この世に、あのときの自分よりも恐ろしいものがいるだろうか。あのような無念よりも、悔しい想いがあるだろうか。あれは自分一人のことではなく、人という生きものは、誰でもああいう想いに囚われてしまう機会があるのか。それが煩悩であり、業というものか」(第四話 おくらさま P440)


人は、宿命に翻弄される。
もうだめだと、絶望の淵に立たされる。

そんな時。

誰かに話をきいてもらう。
頷いてくれる。

それだけでいいのだ。

人生は、幸せになるためにあるのだから。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2021年12月23日
読了日 : 2021年12月23日
本棚登録日 : 2021年12月23日

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