どーんと分厚い外見通り、読み応えがある。まさにこれは「読む前と世界が違って見える」本の一つ。高野さんの代表作になるだろう。素晴らしい。
「ソマリランドって、ソマリアの近く?ソマリア沖って海賊の出没するとこだよね?」程度の知識しかなかった私は、WEB本の雑誌に連載されていた第1章第2章のソマリランド入国記だけでも、十分驚きで至極面白かった。崩壊国家のただ中で内戦を独自に終結させ、二十年も平和状態を維持しているのに、国連が認めずほとんど知られていない国ソマリランド。「未知」「未確認」とされるものをその目で確かめずにはいられない高野さんが、入国を果たし、日本人とは対極にあるような強烈なソマリの人々に翻弄されながらその社会の有り様を身一つで調べていく。奇跡のような平和はどうやって作り上げられたのか。
このソマリランドルポが実は導入にすぎない、というのがまあ何ともすごいのだ。同じソマリ人が作る海賊国家プントランド、戦火のただ中にある南部ソマリアへと高野さんの探査行は進められていく。ここが高野さんの真骨頂、とにかく「自分の目で見る」ことをモットーにし、「悲惨な内戦」という出来合いの先入観を持たずに、ずんずんとその実態を明らかにしようとしていく。もうここはとにかく読んで!としか言いようがない。大迫力である。
しかしながら、そこはそれ高野さんである。こんなにとてつもないルポなのに、やっぱりいつもの「スットコテイスト」(Pipoさんお借りしました。これは秀逸!)が漂っているのがおかしい。何度大笑いしたことか。ジャーナリスト然とした傲慢さとはまったく無縁なところが、我らが高野さんの高野さんたる所以だ。
それにしても、最近これほど色々考えさせられた本はない。帯に「西欧民主主義敗れたり!」とあるが、自分の世界の見方、ものの考え方がいかにその「西欧民主主義」的であるかということをあらためて痛感した。まったく世界は広い。思いもよらない様々な価値観を持つ人々がいて、世界を覆う(と私たちが思っている)欧米的な「常識」を軽々と無視して成り立つ社会がある。無政府状態で中央銀行もないのに強く安定した通貨(ソマリア・シリング)を持つ国なんて考えられるだろうか。インフラは整い(なんとか、ではあるが)、みんなが携帯電話を持ち、食料は豊富でおいしい。ないのは政府だけ…。
国なんかなくてもちゃんと暮らしがあり、笑ったり泣いたり、真剣だったりいい加減だったりして人々が生きている。これはちょっと衝撃だ。私たちは、いかに多くのことをなくてはならないと思い込んで、閉塞感に浸っているのだろうと思わせられる。高野さんの書かれるものにはいつも、権力や権威をするっとかわしていく自由な風が吹いていて、そこが好きだなあ。
そういう持ち味が一番よく出ているのが、最後に書かれているこれから何をしたいか、というところ。高野さんは、国際社会がソマリランドを支援することを望んでいる。それが「平和になれば、カネが落ちる」というソマリ社会への明確なメッセージになるからだ、と。そして…
「もしソマリランドに援助や投資がなされるなら、私は日本で唯一の、そして世界的にも数少ない外国人のソマリ専門家として是非参加したい――とは露一つ思っていない。
私がやりたいのは未知の探索だからだ。
今考えているのは、ソマリランド東部の、ブントランドと国境を接する地域をラクダで旅することだ。……」
これには拍手!あくまで「未知への冒険」を指向しているところがいいなあと思う。
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行ってきました!「ソマリランド」刊行記念トークイベント。楽しかったなあ。コーフンさめやらぬまま、とりあえずイベントの様子を書き留めておきたくなりました。
二日にわたって行われた大阪でのトークショー&サイン会。その二日目は丸善・ジュンク堂書店梅田店7階のこぢんまりとしたサロンが会場だった。ジュンク堂は大阪に何店舗かあるけれどここが最大規模。何とこの日は高野さんのイベントと同時並行で、建築家の安藤忠雄さんのサイン会が行われていて、夕方からは桂文枝さん(三枝さんね)のサイン会もあるんだとか。高野さんもこれには驚かれたようで「一人だけビッグネームじゃないけど」と笑っておられたが、いえいえ、一番喜んでたのは絶対高野さんのファンだと思います。
だってトークショーはたっぷり一時間半、その後のサインも一人一人と話をしながら丁寧にしてくださって、感激ものだったのだ。私は一番好きな「ワセダ三畳青春記」を持って行って、厚かましくもこちらにもサインをお願いしたのだが、快く大きくサインをいれてくださった。ジュンク堂の店員さんの「それ面白いですよねえ」の言葉に思わず「十回くらい読みました!」と言ってしまい(本当なんです…)、すると高野さん「僕より読んでますね」だって。
さて、肝心のトークショーだが、お相手は「本の雑誌」の杉江さんで、これまた嬉しかったなあ。杉江さんはとっても若々しい文学セーネン風のイケメンで、おお、こんな人だったの!と驚く。もっとオジサンだと思ってたのよ。意外といえば、高野さんもそうで、風貌は写真なんかで見るとおりなんだけど、低音の落ち着いた話しぶりがすごく知的な感じ。もっとこうハイテンションな感じをイメージしていた。いやあステキでした。
おっと、トークの中味中味、これはもちろん「ソマリランド」取材の裏話的なもので、本の内容に期待を抱かせる濃い内容だった。京都人みたいなエチオピア人と、人の話を全然聞かないソマリ人っていうのがおかしかったなあ。随所に笑いを交えつつ、でも、紛争地帯というと一面的な報道しかしないマスコミや、とにかく危険と言っておく外務省の姿勢なんかに触れたときの話は、高野さんの硬骨漢ぶりがうかがえて印象的だった。
おお!と思ったのは、最後のほうで今後の執筆や行動計画に話が及んだとき。少し前に出た「未来国家ブータン」はとっても面白かったが、ブータンについてもう一冊書く予定なんだそうだ。その内容というのが、何とブータンは十年ほど前に戦争をしていて、あまり知られていないその実態について調べて書きたいとのこと。ブータンが戦争?それだけでも驚きだが、なんとそれが「相手から恨まれない戦争をする」というコンセプトだったんだって!この日聞いた話だけでもたいそう面白かった。早く読みたいなあ。
もう一作はイランについて、「学園国家イラン」ってタイトルだけ決まっているそうだ。この話がまた、いたく私のツボだった。高野さん曰く「イスラムというのは校則のめちゃ厳しい高校だと思うとわかりやすい」。うーん、これは私がこれまで聞いたどんなイスラム論より納得できるものだ。これも刊行を楽しみに待ちたい。
高野さんは「大阪の人はトークに厳しいと聞いていたけど、とても温かく迎えてもらった」とおっしゃっていた。「万博公園の太陽の塔を初めて見て感激した」とも。是非またいらしてほしいものだなあと思いました。
さあこれから「ソマリランド」を読むぞお。
- 感想投稿日 : 2013年3月4日
- 読了日 : 2013年3月7日
- 本棚登録日 : 2013年3月4日
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