経済学者が知的財産権を全否定するすっごくラディカルな書。要するに知的財産を独占させることは競争を否定することであり,百害あって一利なしという刺戟的な説を滔々と述べる。
知的財産制度は,中世に恣意的に賦与されてた特権を多少修正した制度にすぎず,本質は独占である。早く来た移民が遅れてきた移民を排除するようなもの。しかも知財は,土地とか動産とかいう有形物でなく,情報という無形物に与えられるから余計に始末が悪い。
インセンティブを与えるために独占権の付与が必要というのが定説だが,モーツァルトやベートーヴェンの時代には著作権はなかったことなど,著者たちはいろいろ例を挙げて異を唱える。知財がなくても発明はなされ,作品は作られてきた。インセンティブとしては,先行者利益で充分。模倣には時間も金もかかる。マネされないうちに,自分の技術・作品から利益は得られる。それが発明・創作のインセンティブになる。
それどころか,知財があるために技術革新が滞ることも多い。蒸気機関の改良は,ワットの特許が切れるまで進まなかったし,初期の飛行機の発達は,ライト兄弟の特許がなかったフランスで進行した。
独占者がレントシーキングすることは社会的な損失となる。独占利益を維持するために,生産に結びつかない監視・訴訟などの活動に興じる不毛。
しょうもない特許が成立することも多く,サブマリン特許,パテントトロールの問題もある。特許のほとんどは防衛的に取得されるのでその数も必然的に多くなり,審査にも維持にも時間とコストがかかる。知財がなければこのような無駄な労力は要らない。
そんなこんなで,著者たちは知財権を徐々になくしていくべしと主張する。とりあえず期間を短くするとかして権利を弱めることから始める。ただ世の中の状況はこれとは反対に権利を強くし,また途上国にも法整備を迫るなど,地理的にも拡充していく方向。
まあ極端な論,ということにはなろうが,巷間無闇に叫ばれる知財礼賛の言説に対する良い冷や水にはなっている。歴史的な経緯から制度としてはかなり定着しているので,弊害が少なくなるような運用を考えていくのがいいかな。著作権は登録制とかいいかも。特許など,現状では何でも一律で同じ期間保護されている。これもベストではないんだろうが,差別化するのもまた難しい。いっそ制度をなくしたらそういう余計な心配もないのですっきりするという気持ちは理解できる。
医薬品産業についても,一章を割いて検討している。そのうえで,特許は不要・有害と結論してる。反著作権だけあって,本の内容はフリーで公開されている(英語版のみ)→ http://bit.ly/hOoDpC
- 感想投稿日 : 2011年10月30日
- 読了日 : 2011年3月22日
- 本棚登録日 : 2011年10月30日
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