上下まとめて。
主人公の一人「田村カフカ」は中野区野方に住む、高名な彫刻家の息子で家出少年。母と義理の姉が幼い頃に出て行ったことが、ずっと心の重りになっている。
もう一人の主人公、ナカタさんも野方在住の60歳の老人。幼い頃のある経験で、影が濃さが半分になり、読み書きの能力を失い、猫と話せるようになった。
呪われた予言を受け、「世界でいちばんタフな15歳になるため」、カフカ少年は家を出て四国・高松へ向かい、姉のような”サクラさん”と出会い、甲村記念図書館の一部となり、大島さん、そして佐伯さんと出会う。図書館の一室に住むことになったカフカ少年は周囲と不思議に交わっていく。
一方ナカタさんは猫探しの依頼から事件に巻き込まれ、「入り口の石」を探しにヒッチハイクをし、途中で出会ったトラック運転手・星野の力を借りて高松へ向かう。
ナカタさんストーリーとカフカのストーリーが並行して進んでいくも、二人とも高松へ向かい、それがだんだん一点に集約していく。
ギリシャ神話「オイディプス」をベースにしている通り、父を殺し母と交わる描写がある。
基本的にはカフカ少年の成長物語であり、ミステリー要素もあって、村上春樹作品としてはわかりやすかった。
「ジョニー・ウォーカー」氏による猫の惨殺シーンはかなりグロテスクで、読み飛ばした方がよかった。ああでもしないと、なかなか”殺人”という行為をニュートラルに描けないのでしょうが。
猫はきっと”読み書き=記録のない世界”の象徴なのでしょう。図書館とは対をなす。
人は現世で生きている出来事にのみ関わるわけでなく、去った人たちの記憶の世界や、夢の世界とも関わり、ときにそこにも責任が生じる。
カフカ少年は心の友人「カラス」とともに旅立ち、高松でサクラさんと大島さんと出会った。予言を終え、最後に東京へ戻るとき、「新しい世界の一部に」なる。
傷を抱えて、旅をするとはこういうものかもしれない。少しノスタルジックになるが、「ジョニー・ウォーカー」氏を除けば登場人物がみんな優しい人で、結構すきな作品でした。またいつか読み返そう。
- 感想投稿日 : 2020年8月30日
- 読了日 : 2020年8月23日
- 本棚登録日 : 2018年1月14日
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