様々なジャンルで括ることができる作品です。時代小説でもあり、伝奇小説でもあり、ミステリー小説でもあり、そして怪獣小説でもあります。人によっては小日向直弥の成長小説として読む向きもあるかもしれません。
一つ確実に言えるのは、どの面から眺めてもよくできているということです。
宮部さんはデビュー以来さまざまな形の「悪」を描き続けてきました。心の奥に潜む目には見えない悪(悪意)が人の手による事件という形で露になる、というパターンが多かったと思いますが、本作に関しては暴れ狂う怪獣という形で登場させるところが、言葉は悪いですがぶっ飛んでいます。
一読した後で冷静に振り返ると荒唐無稽な設定に感じられることも確かなのですが、一方で読んでいる間はほとんど気にならず、物語にどんどん引き込まれていきます。
本作のもつ強い吸引力を下支えしたのは、月並みですがやはり登場人物たちがみな魅力あふれるキャラクターだったことではないかと考えます。強さ、弱さ、そして影の部分が一人一人に対してきちんと描き分けられていたからこそ、彼らの言動一つ一つに強く引き付けられました。
もちろんストーリーの面白さという点も大きい。特にラスト近く、怒涛のごとく畳みかける展開はさすがの一言でした。
こういう作品にはなかなかお目にかかれません。
というか、現存の作家で本作のようなものを描けるのは宮部さんぐらいしかいないと思います。
とにかく感服しました。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
宮部みゆき
- 感想投稿日 : 2017年8月21日
- 読了日 : 2017年8月20日
- 本棚登録日 : 2017年8月20日
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