台詞に、思想に、ハッとさせられながらも、どこか全てに薄く靄のかかっているようで、私は半分眠っているかのような不思議な感覚のまま物語は進んでいった。
実は、村上作品を読むのはこれが初めてだ。タイトルはもちろん、ともすればお話のあらすじまで各所で紹介されていしまいそうなほど有名な作品たち、そして作家でありながら、どこか避けていた。なんだか不思議な話を書くのだろう、などというあやふやな見識で自分の理解力の無さを包み隠していたのだと思う。読んで難しい、理解できないと分かるのが怖かったのかもしれない。可哀そうな自尊心だ。
読み始めると、思いのほかお話は理解できた。(正しい意味の理解かどうかは定かではない)調子よく読み進んではいくが、前述の通り、どこか靄のかかったような、不思議な感覚のまま。
しかし突然に痛みが走った。
「そうだよ」と鼠は静かに言った。
「救われたよ」と鼠は静かに言った。
一般論の国では王様になれる僕と弱さや夏の光や僕と飲むビールがすきな鼠。
届いた手紙と写真と小説、ブランデーとチーズ・サンドウィッチ。
きっと作者の言いたいことは分かっていない。それでもこれは私にとっては悲しい物語なのには違いなかった。最後まで読んだ後、何度も何度もいろいろな部分を読み返している。
上手く言葉にできない。昨日の夜から喪失感が消えない。
そういえば、私は今ちょうど鼠と同じ歳だ。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2020年5月12日
- 読了日 : 2020年5月12日
- 本棚登録日 : 2020年5月12日
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