恍惚の人 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1982年5月27日発売)
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感想 : 196
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何考えてるんだ、こやつは・・・

認知症の親の瞳を覗き込む。

でもそれは、「恍惚」と言った陶然とした表情でなく、単に感情が読めない、そんな感じ。

「恍惚の人」を知ったのは、高校生だった昭和57年、文学史の教材で。

それから40年、気になっていたが、老人問題なんて・・・読むのを後回しにしてきた。

この小説のすごいところは、昭子の介護の奮闘ぶり。

僕も介護の入り口に立った経験からわかるのだが、時間的にも体力的にも精神的にも、食事と下の世話までしなければならず睡眠も妨げられる、となれば、限界はあっという間にやってくる。

介護保険が整う前、昭子のように舅の介護に全力を尽くす主婦が珍しくなかったとすれば、その献身・実行力には驚嘆するしかない。

この作品は、1972(昭和47)年に一番売れた本であり、その後の介護制度・人々の価値観の礎となった・・・

ということを先ほど知った。

この作品の小説を超えた偉大さは理解したつもりだが、読んでいて決して楽しいものではない。

老いは家族と自分、いずれは誰にでも訪れる、避けては通れない未来ではあるが、それが実際に訪れたとき、看護師やヘルパーや介護施設、病院の助けを借りて、自分らしい、充実した人生を送ることができるよう生活環境を整えていく。

これも、今の時代を生きるには、とても大切な価値観だと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年3月26日
読了日 : 2022年3月26日
本棚登録日 : 2022年3月26日

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