ごくまともな小説
題は「あやとり」の意味。
世の中楽に生きようと思えば、嘘で周りを固めればよい。本の表紙にある「猫のゆりかご」を見ても、そこには「猫」も「ゆりかご」もないんだ。
皮肉家であるヴォネガットの口調は、本作ではまだ丸い。(後半の作品に見られるように)ストーリーにも狂気が含まれていない。
きわめて読みやすく、シンプルに現在社会への憎しみと人間への愛が伝わる作品だ。 ここにはキルゴ・トラウトも出てこないし、作者自らが登場することもない。原爆を発明した狂気の科学者が新たに作った「すべてを氷にして固まらせてしまう秘薬」により世界が終わってしまうまでを描いている。
キーワードは嘘で固めた「ボコノン教」。この虚構の宗教はなかなか信者が多いみたいだ。
経典の冒頭に「これはすべて嘘である」と断っているにもかかわらず、現実逃避願望からボコノン教徒になっていく主人公とそれを取り巻く狂気の原爆博士の息子/娘たち他がストーリーの大きな流れを作り、エンディングである「始祖との出会い→人間をあざ笑うボコノン教の真実」を形作る。
この作品の前に「タイタンの妖女」(既出)があり、後に「ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを」(既出)と続くのだが、この3作品が私にとってヴォネガットのベスト・ショットかな。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
SF
- 感想投稿日 : 2011年9月16日
- 読了日 : 2005年9月22日
- 本棚登録日 : 2011年9月16日
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