リオ―警視庁強行犯係・樋口顕― (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2007年6月28日発売)
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今野敏「警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ」第1作目(1996年7月単行本、1999年11月文庫本)。
「隠蔽捜査シリーズ」全9作を4〜5月に読了して竜崎伸也のキャラクターの大ファンになった。そして今野敏の新たなシリーズをまた読みたくなり今シリーズを手に取った。竜崎伸也のキャラクターとは立場も人柄も全然違うが、今シリーズの主人公の樋口顕も興味を注がれるキャラクターだった。

警視庁捜査一課強行犯第三係長で警部補の樋口顕40歳が主人公。1955年生まれ、全共闘世代後の世代で、全共闘世代の後始末を負わされたという被害者意識を持ち、謙虚で真面目で人の目を気にするが、個人のプライドより効率を優先し組織を上手く利用し、そして上司同僚からも信頼されている優秀な刑事である。しかし本人はそうは思っていない。それでも捜査における状況判断や洞察力は抜きん出ており、容疑者や関係者から話を聞き出すのも上手い。考え方はどちらかといえば保守的で家族を愛するマイホーム主義でもある。妻の恵子40歳と娘の照美16歳の3人家族だ。

事件は3人の中年男が次々と殺害され、いずれも高校生くらいの美しい女が現場で目撃され、3人目の現場ではその殺人現場で確保される。捜査本部ではその女性飯島里央を容疑者として逮捕、自供を迫るが里央は否認する。樋口だけが里央犯人説に違和感を持ち、所轄の刑事の氏家譲38歳と別行動で捜査するというような物語。
3人の被害者はデートクラブのオーナーだったり、暴力団がらみのパブを経営していたり、いかがわしい撮影プロダクションの社長だったりで、ドラッグをやっていたことがわかった里央が犯人であることの可能性が高かった。
樋口が真犯人の可能性として考えたのが二人、DJで里央に惚れている吉田晴彦(通称ハル)、もう一人が里央の通う高校の担任教師の梅本玲治だ。樋口の捜査は強引な捜査ではない。人の話を聞き、相手に安心感を与え、信頼され、そして優れた洞察力が武器だ。慎重に事を進め、自分ではなかなか自信が持てないことが欠点だ。
そういう状況での樋口の独自捜査に助言して協力するのが強行犯第一係の係長で警部補の天童隆一47歳。若い頃の樋口に刑事の仕事を教えた先輩刑事だ。樋口を信頼し、理解し、上司からも信頼されている。
理事官が池田厚作50歳、そして捜査一課長が田端守雄、警視だ。田端も樋口への信頼は厚い。このメンバーがおそらくこれからもシリーズで登場してくるということは想像出来るが、捜査一課長の田端守雄は「隠蔽捜査シリーズ」でも同じ捜査一課長の警視正で登場していて何か嬉しくなった。まさか竜崎伸也は登場しないと思うが、これから知っている刑事が登場してくるかもしれないと思うとちょっと別な楽しみが出てきた。
しかしながら樋口の里央に対する恋愛感情は不自然だ。こんな情けない樋口は要らない。「隠蔽捜査シリーズ」の「疑心」でも竜崎の恋心が描かれていたが、両方とも愛情たっぷりの素晴らしい守る家族がいて、理性的な主人公で、保守的な価値観を持ち、この恋愛感情は釣り合わない。
事件の真相は、予想通りの展開なのであまり感動はなかったが、これから樋口がどんなキャラクターを見せてくれるのかは、期待が膨らむ。シリーズ次作も是非読んでみたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年7月19日
読了日 : 2021年7月15日
本棚登録日 : 2021年7月8日

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