シャーロック・ホームズの叡智 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1955年9月22日発売)
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感想 : 79
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小学生の頃、偕成社のシャーロック・ホームズ全集を夢中になって読んでいたことを思いだした。
延原謙さんの訳が、わたしにはしっくりくる。すっと物語に入っていけたことで、あの頃のワクワク感が蘇ってきたのだ。
あとカバー装幀が気に入ったな。シンプルな白地に凝った字体のタイトル、うるさくない可愛いデザインのホームズ。好き、こういうの。

訳者解説によると、『シャーロック・ホームズの叡智』という独立した単行本はドイルの原作にはないとのこと。ドイルの原作を文庫用に組んでみると、短編集はページ数がやたら多くなったので、一部割愛することに。その割愛されたものをまとめたのが『シャーロック・ホームズの叡智』なんだって。割愛されたものだからといって、これらの作品が他のものより劣るものである訳ではけっしてないと述べられている。

事件の概要は、怪しい仕事依頼から宝石の盗難、殺人、失踪、カレッジの奨学金試験不正疑惑などなど幅広く富んだラインナップ。大満足のとても面白い短編集だった。

まず物語の大半は、相談者が思わぬ事態に取り乱し、慌てふためき登場するところから始まる。ときにホームズさえ呆気にとられてしまうのだから、相談者は必死なんだけれど、必死だからこそ意味不明な行動を取ってしまったりして不謹慎ながら吹き出しそうになる。ごめんなさーい。
でもそんな彼らこそが、退屈そうなホームズを嬉々とさせてくれるのだから、ここは歓迎?しなくちゃならないところだよね。

8編の短編は、「冒険」「思い出」「帰還」「事件簿」の各原作から集められたものなので、事件が起きるその時々のホームズの状況や、たとえば他の事件、ワトスン博士との関係性や健康状態などが当然違ってくる。
だけど、それが煩わしいとかじゃなくて、時系列や、その頃のロンドンの様子、事件の概要などを調べたりすることが意外にも面白くて、無謀にもシャーロキアンぶりたくなってくる楽しいひとときだった。

収録作品
「シャーロック・ホームズの冒険」から
『技師の親指』
『緑柱石の宝冠』

「シャーロック・ホームズの思い出」から
『ライゲートの大地主』

「シャーロック・ホームズの帰還」から
『ノーウッドの建築士』
『三人の学生』
『スリー・クォーターの失踪』

「シャーロック・ホームズの事件簿」から
『ショスコム荘』
『隠居絵具屋』

そうそう、『緑柱石の宝冠』で、解き明かした事件の真相が信じられない相談者に対してホームズが語った言葉。
〈あり得べからざることを除去してゆけば、あとに残ったのがいかに信じがたいものであっても、それが事実に相違ない。〉
この名言を見つけたときは、あ、これかぁとひそかに嬉しくなった。なんてったって『名探偵コナン』の名作のひとつ「そして人魚はいなくなった」をはじめ度々出てくるセリフなのよ。そうか、この短編が元ネタだったんだな。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 英米文学
感想投稿日 : 2020年8月4日
読了日 : 2020年8月4日
本棚登録日 : 2020年8月4日

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