短編11作品を収録しています。
表題作の「おれに関する噂」は、平凡なサラリーマンである森下ツトムの日常が、とつぜんマスコミを通じて人びとに伝えられるという、シュールな世界がはじまります。このままナンセンスの路線で行くのかと思いきや、マスコミに踊らされる現代人の風刺とも受けとることのできるような結末が用意されていて、個人的にはなくもがなの感があります。
「YAH!」も、同様のねらいをもった作品であるように思われます。アパートに暮らすしがないサラリーマン一家のもとに、田中と名のる家計コンサルタントの男がずかずかと入り込んできて、彼らの金遣いに口出しをはじめます。とくに結末部分で、現代の世相を風刺するような内容があからさまに提示されているのですが、こちらは田中といういかにも胡散臭げな男が生活のなかに不躾に入り込んでくるという展開が不条理性を強く帯びていて、「おれに関する噂」にくらべると純粋におもしろく読むことができたように思います。
「心臓に悪い」は、日本海沖の柘榴島に出張を命じられた会社員の男が、心臓の持病の薬がなかなか届かないことに苛立ちつづけるというストーリーです。結末部分でそれまでの流れを大きく跳躍するような締めくくりかたになっているのは、著者が最後の最後で我慢ができなくなってしまったかのようにも感じられます。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
日本の小説・エッセイ
- 感想投稿日 : 2023年11月17日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2023年11月17日
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