日蝕 (新潮文庫 ひ 18-1)

著者 :
  • 新潮社 (2002年1月1日発売)
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本棚登録 : 1141
感想 : 134
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この本を読んで、私は悔しさのような絶望感のような哀しさのような気持ちで涙が出た。
物語の表層にではなく物語の内容とは別とでも言うべき深層に在るものに、文章という表現方法の中に垣間見られる、形の無い、例えば絵画を見て何かしらを感じる時のようなものが、私を涙させた。

解説を読むと、私の感想は全く本質を捉えておらず、作者の意図や記されたメッセージを汲み取っていないらしいのだが、別に解説通りに読まなければ(感じなければ)いけないということはない。

平野啓一郎氏の小説をいくつか読んで共通して感じることは、語り手となる主人公に、苛立ちのような不快感のような嫌悪感のような類の感情を抱かせられるということだ。
そういった感情を抱くというのは、実は統ての人間の本質にある黒い塊を実に正直に顕しているからに他ならない。
しかしながら人間は綺麗事が好きなのだ。真正面から自分の本質など見たくなんてないのに平野氏は平気で抉り出してしまう。圧倒される程の才能を持って、その美しい文章と毅然とした文体と緻密に構築された流れとで抉り出す。
不快でありながら清く潔く美しいという相反する感情を抱かせる。
そんな風だから、後味は決して良くなくて、心に重く苦しく行き場のない感情が残る。

それでも私は平野氏の小説を手に取ってしまうのは、現代のくだらない情報が氾濫する中で、平野氏は人間に対して嘘偽りなく真正面から文章で向き合っているように感じるからだ。

そういう真摯な姿勢で小説を書く若い作家はそういないだろうと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本文学
感想投稿日 : 2010年6月10日
読了日 : 2007年11月22日
本棚登録日 : 2007年11月22日

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