ジェーン・エア(下) (新潮文庫)

  • 新潮社 (1954年1月12日発売)
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再読いよいよ下巻へ。伯母の葬儀を終えたジェーンは1か月ぶりにソーンフィールドに戻り、ロチェスター氏とも再会する。ジェーンが旅立つ前からロチェスター氏はイングラム嬢との結婚をジェーンに明言していたが、ジェーンが戻ってからもまだその話は続いており、ジェーンは彼女がソーンフィールドに花嫁としてやってくるなら、アデールはどこかの学校へ入れ、自分は解雇してほしいと伝える(あの性格悪いイングラム嬢に苛められるのは明白だから)。

しかしある晩、眠れずに散歩していたジェーンはばったりロチェスター氏と会い、話をするうちについ自分の気持ちを遠まわしに打ち明けてしまう。それを聞いたロチェスター氏はようやく自分もジェーンを愛していることを伝え、プロポーズ。イングラム嬢との結婚話は、ジェーンを嫉妬させるための作戦だったと打ち明ける(えー、そんな姑息なことするタイプだったの!)ジェーンは戸惑いながらもプロポーズを受け入れるが、急に雷雨が遅い、庭の木に落雷して真っ二つになる(不吉な将来を暗示…)。結婚式までの短い婚約期間、本当なら最高にラブラブで幸せなはずだけど、今までの人生で傷つきすぎて用心深いジェーンは、この期に及んでまだロチェスター氏に甘えすぎない努力を続ける。どこまでも理性が勝つ彼女は、正しいけれどどこか痛ましい。

しかし結婚式の前々夜、ジェーンは自分の部屋に誰かがいる気配で目を覚ます。見たことのない恐ろしい容貌の女性が花嫁衣装のヴェールを引き裂いて睨みつけてきて、ジェーンは気絶する。悪夢かと思いきや、翌朝ヴェールは本当に引き裂かれていた。ジェーンはそのことをロチェスター氏に打ち明け問い質すが、ロチェスター氏は、それはきっと例のグレイス・プールの仕業だとはぐらかしてしまう。いったんはそれを信じたふりをし、結婚式当日をむかえたジェーン。しかし教会に二人の男性が乱入してきて誓いを妨げる。二人の男性はメーソン氏とその弁護士で、彼らはロチェスターがすでに既婚者であり、その相手はメーソン氏の妹であると神父とジェーンに告げる。

隠しきれないことを悟ったロチェスター氏は、ついに秘密を明かし、ジェーンを妻バーサに会わせる。それは昨夜の女性で、今までの奇妙な事件(夜中の笑い声、ロチェスター氏の部屋の火事、メーソン氏の負傷事件)はすべて、ソーンフィールドに監禁されていた彼女の仕業であったことがわかる。グレイス・プールはバーサの世話係だった。

ロチェスター氏は、バーサと自分の不幸な結婚の経緯をジェーンに語る。15年前、不仲だった父と兄が次男の彼に財産分配したくないばかりに、持参金目当ての逆玉の輿を画策、裕福な商人の娘であるバーサと会わせる。当時のバーサは華やかな美女で、まだ若く初心だったロチェスター氏は彼女に恋をして結婚するが、すぐに彼女の淫蕩な本性を知り嫌気が差す。さらに彼女の家系には代々狂人が出ており、数年で彼女にもその兆候が表れ6年ほどで今の状態に。ロチェスター氏は妻をソーンフィールドに監禁してグレイス・プールに世話をさせ、新しい伴侶を求め自分は欧州各地を旅行、アデールの母の他、幾人かの女性と恋をするも、本当の伴侶には巡り合えなかった。そして疲れ果ててソーンフィールドに戻ってきたときジェーンに出逢ったのだと。

ジェーンは、すべてを知っても強くロチェスター氏を愛し続けていたが、感情に流されるより理性の勝る彼女ゆえ、狂人とはいえ妻バーサのいるロチェスター氏と結婚することはできない、自分はソーンフィールドを去ると彼に告げる。ジェーンのこの意志の強さ、潔癖というかストイックというか、恋愛の激情に流されない部分は、もしかして彼女を不幸にしているのかもしれないが、ジェーンは、そういう自分だからこそロチェスター氏に愛されたのであり、もし自分が感情のまま彼の傍に居続けたらいずれ捨てられるだろうと考える。ほんとジェーンのこういうところ、好きだけどもどかしい。ロチェスター氏は涙にくれるが、ジェーンの意志の固さを知り彼女を去らせる。このへんになるとさすがに二人の恋心が切なかった。両想いなのに引き裂かれる、恋愛ものの王道パターン。

着の身着のままソーンフィールドを去ったジェーンは、手元にあったお金で行けるところまで馬車で行き、何もない場所で降ろされてしまう。無一文で彷徨い、ようやく小さな村に辿り着くが、パンをひとつ買うお金すらジェーンにはなく、野宿し、物乞いで親切な人から分けてもらった僅かな食事で数日を過ごす。もはやホームレスとなってしまったジェーン、行き倒れになる寸前の彼女を救ってくれたのは、ダイアナとメアリの姉妹と、その兄の牧師セント・ジョンの一家。姉妹の看護を受け、ジェーンは回復すると、この知的で優しく美しい姉妹とすっかり仲良くなり、打ち解ける。しかし一家は貧しく、姉妹は家庭教師として、ジョンは牧師として自分の教区へ旅立たねばならず、ジョンはジェーンに、農民の子女のための小さな学校の教師の仕事を斡旋してくれる。

さてこのセント・ジョン、男性版ジェーンともいうべき大変ストイックで冷静な男性。しかし外見はジェーンと違い、姉妹と同じく美しい容姿を持った29歳。お金持ちのお嬢様ロザリンドが実は彼にぞっこん、彼もロザリンドに恋しているのだけど、潔癖かつ融通きかない性格ゆえ、両想いでなんの障害もないのに彼女との結婚は考えていない偏屈男。ジェーンはロザリンド嬢とも親しくなり、ふたりの間柄を察して密かに応援していたが、ジョンは恋愛よりも信仰、牧師じゃなくて宣教師になってインドへ布教に行くという夢のほうを優先する。そこまでは別に良い。問題は、このセント・ジョンが、愛するロザリンドとは結婚しないくせに、布教のお供にジェーンを妻にしたいと意味不明なことを言い出して、ジェーンが危うく洗脳されそうになったところ。

その前に、自分の本名を偽っていたジェーンの正体を、セント・ジョンが知ってしまうエピソードがある。リード伯母が隠していた、ジェーンの父方のジョン叔父が遺産をジェーンに譲りたがっているという話が以前あったが、この叔父がついに亡くなり、弁護士がジェーンを探していたのだ。そして実はこの叔父さん&ジェーンの父兄弟にはさらに姉がおり、それがなんと、セント・ジョン&ダイアナ&メアリ姉妹の母親であったことが判明。つまり彼らはジェーンとはいとこだったわけですね。きょうだい構成がリード伯母のところと全く同じなのが皮肉。あちらも三人のいとこがいたけれど、ジェーンは彼らをいっさい家族とは思っていない。しかしセント・ジョンとダイアナ姉妹がいとこであると知り、ジェーンはようやく家族を得たと狂喜する。そして亡くなったジョン叔父が自分に残した遺産2万ポンドを、ジェーンは四分割してこのいとこたちに譲る。

親族だったとわかって、姉妹とジェーンはさらに絆を深めるが、セント・ジョンだけは、前述したようにジェーンを自分の妻にしようと画策、その言い分がほぼサイコパスでめっちゃ怖い。ジェーンは、インドへの布教に同行すること自体はやぶさかではない、妹としてなら一緒に行ってもいいが、妻にはなれないと答える。しかしジョンはどういう理屈かよくわからんないけどジェーンを妻にすることに固執。彼女を全く愛していないのに、神を建前に自分の精神的奴隷にしたがっているようにしか思えない。しっかり者のジェーンが、神様を盾にされると危うく洗脳されかかってハラハラ。しかしジェーンは、あれこれあった間もずっとロチェスター氏への愛は失っていない。ある晩ロチェスター氏が自分の名を呼ぶ声を聞く。ジェーンはセント・ジョンに返事をする前に、せめてロチェスター氏の消息を知りたいと思い、フェアファックス夫人に手紙を出すが返事は来ない。ついにジェーンは再びソーンフィールドへ赴く。

しかし訪れたソーンフィールドは、なんと燃え落ちたあとの廃墟で、ジェーンは愕然とし、宿屋に戻って主人に何があったのか尋ねる。ジェーンが去った後、ロチェスター氏はアデールを学校に入れ、フェアファックス夫人らの使用人を解雇し、すっかり偏屈になって邸に閉じこもっていたが、ある晩、狂った妻バーサがグレイス・プールの目を盗んでまたしても徘徊、ジェーンがいた部屋に火を付け邸は燃え上がる。ロチェスター氏は、残っていた使用人を救い出し、バーサをも救おうとしたが、バーサは燃え上がる邸から投身自殺。炎に巻かれたロチェスター氏は、視力と片腕を失い、今はファーンディーンの別邸に、古くから仕えているジョン夫妻だけを残して引き籠っているという。ジェーンはいちもくさんにファーンディーンに向かう。

ここからは、今までの遠回りはなんだったんだ、というくらい、自分の感情に正直になったジェーンが、再会したロチェスター氏と変わらぬ愛を確認し合う。あれほど悩んでソーンフィールドを去ったジェーンが、もう一生あなたの傍にいますと膝に坐って甘える変貌ぶり(笑)ロチェスター氏も当然ずっとジェーンを想い続けており、彼の身体的障害はジェーンにとってはなんの障害にもならない。急展開にビックリするけど、セント・ジョンのサイコパスっぷりがあまりにもキモかったため、ロチェスター氏めっちゃ良い人!!って思ってしまって、もうジェーン良かったねえええ!!!!と私も感涙。ふたりはとっとと結婚し、めでたしめでたし。

女性の自立についてかなり先鋭的だったジェーンが、あっけなく恋愛結婚を優先するのはある意味拍子抜けとも言えるけれど、どうやらジェーンにとって重要なのはロチェスター氏と対等であること=叔父さんの遺産を貰って貧乏ではなくなったこと、で恋愛へのハードルが下がったように思われます。あともちろんバーサが亡くなって、不倫じゃなくなったから、というのもあるけれど。いち読者としては、不幸体質のジェーンがようやく幸せになれて良かった、と思うと同時に、バーサだって好きで狂ったわけじゃないし、彼女には彼女のドラマがあっただろうな、と少し想いをはせてしまったりもする。

ジェーンが不美人だという設定は、当時としては(いや現代でもかな)相当斬新だったのだろうなと思う。おそらく作者シャーロット自身の投影なのだろうけど。とはいえ行き倒れから助けれたとき、意識朦朧としてるジェーンを見て、美人じゃないとか批評するセント・ジョンほんとクソ野郎(苦笑)。時代の差か、ジェーン自身も身分の違いで人を見下す部分があることも少し気になった(ダイアナ姉妹の女中への言動など)

可哀想な孤児が紆余曲折を経て幸福をつかむ、というのは、ある種の定番フォーマットではあるけれど、ジェーンのこの不美人&超理性的という特異なキャラと、あとはやはり素敵な王子様が現れて彼女を不幸な境遇から救ってくれるという形のハッピーエンドではなく、ジェーン自身がなんの引け目もない状態で、むしろ相手が不幸の中にあるときに、彼を救いに現れるという形でのハッピーエンドになっていることは斬新だった。なにより夢中で一気に読ませる力のある、娯楽小説としても素晴らしかったと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  ★イギリス・アイルランド
感想投稿日 : 2021年4月28日
読了日 : -
本棚登録日 : 2012年9月7日

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