音は聞こえる。
しかし、聞こえる音は、壊れている。
だから、突然の大きな音に驚き、恐れのあまり、身を小さくして、その場にうずくまってしまう。
目の前を舞う言葉をただ紙に書き付けることと、あらかじめ書き付けられた言葉を読み上げること。
両者は、順序が逆さまになっているというだけではなく、まったく、等価なものではない。
それは、話された言葉は、自分にとっての記憶を作り、書かれた言葉は、それがたとえ真実であっても自らの記憶たり得ない、ということを意味しているのだろうか。
耳と耳鳴りは、言葉と記憶の間にある一つの回路として、そこにあった。
「そうだよ。君は自分の記憶の中に紛れ込んでしまったのさ。本当なら記憶はいつでも、君の後ろ側に積み重なっていくものなんだ。ところがちょっとしたすきに、耳を抜け道にして、記憶が君を追い越してしまった。もしかしたら反対に、君があとずさりしたのかもしれない。どっちなのか、それは僕にも分からないけど、でも、心配はいらない。いずれにしても、君自身と記憶の関係が、少しばかりねじれているだけだからね」(P.229)
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- 感想投稿日 : 2013年5月6日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2013年5月5日
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