M/Tと森のフシギの物語

著者 :
  • 岩波書店
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本棚登録 : 32
感想 : 2
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  • Amazon.co.jp ・本 (404ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000001984

作品紹介・あらすじ

人間の再生と救済-新しい物語文学の誕生。四国の森の奥深く、奇想天外のユートピア建設が始まる…雄大な構想力が産んだ感動の大作。

感想・レビュー・書評

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  • 大江健三郎は二十歳前後で読んで以来だったので、こういう文章を書く人だったろうかと思ってしまった。 全ページに司修の挿画が地模様のように入っていて、です・ますの文体。岩波版の装幀のせいもあって、大人向け童話的方向の実験作かと思いましたが、そうではないようです。

    物語は、語り部としての祖母から伝えられる村の歴史(あるいは神話)をメインに進む。
    断片から大きな流れへ、そして細部へと語りを繰り返し、つまりは軸をぐるぐるとめぐっている感じで、しかも時系列は必ずしも一様には流れない。 語り口調は優しいが、なかなか本筋に至らない感じがもどかしい。
    ただ、神話にしては理が勝ち、歴史にしては荒唐無稽な物語をまとめる口調としては「あり」で、土俗的なエネルギーが伝わってきます。

    タイトルのM/Tというのは、matriarchとtricksterのことだそうで、神話・歴史に現れる何人かの英雄的人物をtrickster、その背後の女性をmatriarchとしてとらえています。 tricksterは分かるけど、matriarchは分かりにくい。 著者は「女族長」などの訳語を当てていますが、もっと母性的だと感じました。

    第四章までは村の物語で、第五章で一気に自分と母、そして息子・大江光の物語になって、家族を題材とすることの意味を考えさせられました。 第四章までと比べてこの章は不安になるくらい読みやすかったのですが、大きな救済のある物語として終わっています。

    これがきっかけで『同時代ゲーム』、『臈たしアナベル・リイ総毛立ちつ身まかりつ』まで読んでしまったけれど、大物『万延元年のフットボール』が未読。  次の課題です。

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著者プロフィール

大江健三郎(おおえけんざぶろう)
1935年1月、愛媛県喜多郡内子町(旧大瀬村)に生まれる。東京大学フランス文学科在学中の1957年に「奇妙な仕事」で東大五月祭賞を受賞する。さらに在学中の58年、当時最年少の23歳で「飼育」にて芥川賞、64年『個人的な体験』で新潮文学賞、67年『万延元年のフットボール』で谷崎賞、73年『洪水はわが魂におよび』で野間文芸賞、83年『「雨の木」(レイン・ツリー)を聴く女たち』で読売文学賞、『新しい人よ眼ざめよ』で大佛賞、84年「河馬に噛まれる」で川端賞、90年『人生の親戚』で伊藤整文学賞をそれぞれ受賞。94年には、「詩的な力によって想像的な世界を創りだした。そこでは人生と神話が渾然一体となり、現代の人間の窮状を描いて読者の心をかき乱すような情景が形作られている」という理由でノーベル文学賞を受賞した。

「2019年 『大江健三郎全小説 第13巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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