M/Tと森のフシギの物語

著者 :
  • 岩波書店 (1986年10月17日発売)
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本棚登録 : 32
感想 : 2

大江健三郎は二十歳前後で読んで以来だったので、こういう文章を書く人だったろうかと思ってしまった。 全ページに司修の挿画が地模様のように入っていて、です・ますの文体。岩波版の装幀のせいもあって、大人向け童話的方向の実験作かと思いましたが、そうではないようです。

物語は、語り部としての祖母から伝えられる村の歴史(あるいは神話)をメインに進む。
断片から大きな流れへ、そして細部へと語りを繰り返し、つまりは軸をぐるぐるとめぐっている感じで、しかも時系列は必ずしも一様には流れない。 語り口調は優しいが、なかなか本筋に至らない感じがもどかしい。
ただ、神話にしては理が勝ち、歴史にしては荒唐無稽な物語をまとめる口調としては「あり」で、土俗的なエネルギーが伝わってきます。

タイトルのM/Tというのは、matriarchとtricksterのことだそうで、神話・歴史に現れる何人かの英雄的人物をtrickster、その背後の女性をmatriarchとしてとらえています。 tricksterは分かるけど、matriarchは分かりにくい。 著者は「女族長」などの訳語を当てていますが、もっと母性的だと感じました。

第四章までは村の物語で、第五章で一気に自分と母、そして息子・大江光の物語になって、家族を題材とすることの意味を考えさせられました。 第四章までと比べてこの章は不安になるくらい読みやすかったのですが、大きな救済のある物語として終わっています。

これがきっかけで『同時代ゲーム』、『臈たしアナベル・リイ総毛立ちつ身まかりつ』まで読んでしまったけれど、大物『万延元年のフットボール』が未読。  次の課題です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年11月14日
読了日 : 2016年10月25日
本棚登録日 : 2019年11月14日

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