福祉の経済学: 財と潜在能力

  • 岩波書店
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感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000020046

作品紹介・あらすじ

本書の主な目的は、厚生経済学の基礎、とりわけ個人の福祉と好機の評価に関して、相互に関連した一郡の命題を提出することにある。本書の焦点は、主に福祉一般の評価、とりわけ生活水準の評価に合わせられている。

感想・レビュー・書評

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  • こども家庭庁の件で、ある先生から紹介していただき読んだ。実はcapabilityについてはアリストテレスの勉強会でも言及されたことがあって、なんとなくの理解はあったのだが、本書を読んで「厚生経済学もまた哲学の基礎の上に成り立っている」と実感。

    セン自身が、このようにも述べている。

    「本書のもっと積極的な側面として、私は福祉への新しいアプローチの展開に努めた。人がその達成に成功するさまざまな「機能」(すなわちひとがなしうること、あるいはなりうるもの)と、ひとがこれらの機能を達成する「潜在能力」に集中するこのアプローチの起源は、アダム・スミスとカール・マルクス、さらに遡ればアリストテレスまで辿れるものである。このアプローチは、福祉を、ひとが享受する財貨(すなわち富裕)とも、快楽ないし欲望充足(すなわち効用)とも区別された意味において、ひとの存在のよさの指標と考えようと試みる。」(2)

    本書でびっくりしたのは、下記の記述。こんなに人間社会を的確に見抜いた経済学があるとは驚いた。

    極貧から施しを求める境遇に落ちたもの、かろうじて生き延びてはいるものの身を守るすべのない土地なし労働者、昼夜暇なく働き詰めで過労の召使い、抑圧と隷従に馴れその役割と運命に妥協している妻、こういったひとびとはすべてそれぞれの苦境を甘受するようになりがちである。かれらの窮状は平穏無事に生き延びるために必要な忍耐力によって抑制され覆い隠されて、(欲望充足と幸福に反映される)効用のものさしには、その姿を現さないのである(36)

    福祉経済学だけでなく今の政治哲学を理解する上でも、必須図書だと思う。

  • たぶん何度も読み返す気がする
    買ってよかったし、もっと早く読めばよかった。

    貧しくて物を持っていなくて、ささやかな物で満足し幸福を感じている人と、ものに溢れていながら幸せを感じられない人と比べた時、前者の方が恵まれているとか言えるだろうか?

    幸福間についての枠組みを持ちながらも、公正に関する社会の責任は放棄しちゃいけないのだと考えさせられる

    幸せだから、人から搾取されるような立場にあっても良いのだとか、不利な状況に置かれても良いのだとか、そういうことは言えないのである。
    その辺り、芯から考えさせられた。

  • 放送大学

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著者プロフィール

1933年、インドのベンガル州シャンティニケタンに生まれる。カルカッタのプレジデンシー・カレッジからケンブリッジ大学のトリニティ・カレッジに進み、1959年に経済学博士号を取得。デリー・スクール・オブ・エコノミクス、オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、ハーバード大学などで教鞭をとり、1998年から2004年にかけて、トリニティ・カレッジの学寮長を務める。1998年には、厚生経済学と社会的選択の理論への多大な貢献によってノーベル経済学賞を受賞。2004年以降、ハーバード大学教授。主な邦訳書に、『福祉の経済学』(岩波書店、1988年)、『貧困と飢饉』(岩波書店、2000年)、『不平等の経済学』(東洋経済新報社、2000年)、『議論好きなインド人』(明石書店、2008年)、『正義のアイデア』(明石書店、2011年)、『アイデンティティと暴力』(勁草書房、2011年)などがある。

「2015年 『開発なき成長の限界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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