- Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
- / ISBN・EAN: 9784000029131
感想・レビュー・書評
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臨床心理学者の河合隼男さんと、詩人の長田弘さんの「子どもの本をめぐる」対談集。
1994年~95年に雑誌で連載していたものに加筆。
作品に対する深い考察もさることながら、子どもの本は子どもたちだけのものではないという視点で終始語られる。
児童書も絵本も、子ども向けの本というのはいつも直球で胸に飛び込んでくる。
そこには「真実」があり、人間のたましいに直接作用してくる。
大人にとっては、自分の心の有り様を確かめるための鏡のような役割を果たしてくれる。
「子どもの本のPR賞をもらいたいくらいだ」と言われる河合隼男さんは、大人になってから「ゲド戦記」に出会って夢中になり、講演でもその話をしてまわったのだとか。
かたや長田弘さんはカニグズバーグとピアスに出会って「読む前と読んでからが、ガラッと世界が変わってしまった」と言われる。
さすが!おふたりとも、お目が高い・笑
「積読」の大切さを説いている箇所があるので挙げておこう。
「ツンドクというのは読まないというのとは違うんですね。何かの拍子に読める。
そして夢中になるのがツンドクなんですね」
「しなかったもの、しそこなったもの、つい忘れてそれっきりのもの、そういうものの中には実は、自分で気づいてない豊かなものがいっぱいあるんだってことを、忘れたくないですね」
そしてツンドク本は、子どもの目に見えるところに置いておくのが良いのだと。
日常その本が見えていると、その本のイメージがずーっと自分の中に残るものだそうだ。
そうして、記憶のなかにツンドクだけで読まなかった子どもの本というのを、大人が自分のなかにどれだけ持っているかが、実はその大人の器量を決めるんじゃないかなぁ。
という長田さんの言葉が続く。
記憶の中のみでなく、現実にもたくさんの積読本を抱えているブク友さんたち。
この言葉が読書の励みになるかも。
「赤毛のアン」「モモ」「子鹿物語」、そしてピアスと宮沢賢治作品の考察がとても深い。
とりわけ「モモ」は河合さんにとって特別らしく、心理療法家の必読書であるらしい。
長田さんが積極的に作品を提示して語り、河合さんがじっくり聞いて受けるという図式は、互いの職業による特性なのだろう。
河合さんの後書きによれば、対談は本当に楽しいものだったらしい。
嬉しくて嬉しくて話したいことがいっぱいあったらしく、こちらにもそれが伝わってくる。
「前書き」の担当は長田さんで、ドイツに伝わる民謡集から「魔法の庭」を紹介している。
この最後の一行が空けてあるのだが、どうにも気になる。
ご存じの方がいらしたら教えてね。
本書ではおふたりの「ようこそ、子どもの本の森へ」という一行が書き入れてあるが。
とうに鬼籍に入られたおふたりだが、今も天国で対談されているに違いない。
本を開けばいつでも会えるという喜びが、私たちには残された。
煌めくようなフレーズだらけで、これ一冊でも心は満たされる。詳細をみるコメント0件をすべて表示