- Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
- / ISBN・EAN: 9784000222273
感想・レビュー・書評
-
時代は昭和初期、婚約者と両親、恩師を相次いで亡くした地理学者の秋野は、恩師の遺稿を引き継ぎ南九州にある「遅島」の現地調査に訪れる。
モデルになったのは甑島列島(こしきしまれっとう)だそうですが、「遅島」は作者の創造した架空の島。しかし秋野が調査していくその島の歴史、建築物の構造や樹木・植物の分布、動物の生態、廃仏毀釈で壊された寺社の名残り、さまざまな伝説や言い伝え、島のひとたちの暮らしぶりなど、まるで実在の島のことのよう。地図も付いていて親切。島の人たちとの交流も含め、前半は民俗学的な面白さ。
ところが終盤になって、突如50年の月日が流れる。秋野がお世話になった島人の、老いたひとたちはすでに亡くなり、若い者は戦争に駆り出されて亡くなり、生き延びた秋野自身は妻子に恵まれ、偶然次男がリゾート開発の仕事でかかわることになった「遅島」を50年ぶりに訪れることに。しかし昔を知るひとたちはすでになく、開発された島の様子はすっかり変容しており・・・。
主人公と一緒にその変容にショックを受け、なぜこんな光景をわざわざ読者に見せるのだろう、若い頃の話だけで終わってもいいはずなのに・・・と思いつつ読み進めるうちに、だんだんわかってくることがある。50年の経過、それがあるからこそ感じ取れること。じわじわと意外な形でやってくるカタルシスにしばし呆然。
上手く説明できないけれど、人生なんて海うそ=蜃気楼みたいなもんだったなあっていう、永遠に生きるわけでもなし、変わってゆくもの失われていくものをいつまでも嘆いても仕方ない、なぜなら自分自身もまたいずれ消滅する身なのだから、という気持ちになった。これは今の年齢で読めて良かった。私がもっと若かったらピンと来なかったかもしれない。もっと年をとってから読んだらもっと刺さる本かも。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
梨木さんの本はなんでかとても沁みる。下調べの量もかなりのものだろう。人と人の心のつながりも伝わってくるし、過去と現在の時間の流れが川のようにつながっているのも感じられる。
-
再読。
自然が揺らぎ、物語が揺らぐ。
核心のように思える部分がわずかに近づいたと思うと、また振り子のように離れていく。
最終章では、異世界を歩き回っていたような気分からいきなり現実に引き戻されるが、ここでようやく口にされる主人公の許嫁の話と、短い邂逅であったはずの島の人々の出会いが主人公の中に時間の層として降り積もり、今も息づいている様が記憶に残った。 -
ノスタルジックな、そして神聖で理屈では説明出来ないもの、感情、現象。
時代の流れとともに人の手によって暴力的な破壊力で変化していくものたち。若かりし頃それは胸をえぐられる様な恐怖であったが、それが今だからこそ緩やかに自分の中で融合される感動の様な驚き。
全てが、栄養の無い濃い味付けで誤魔化されたスカスカな食べ物の様に、見た目の華やかさや便利さに重きを置いて本質を置き忘れてしまった様な現代。それも一つの変化として想う。
まだまだ私にはそこまで達観する事が出来ないけれど、そして相反して、便利な世の中に頭の先まで埋もれてしまっているけど、この作品が心から分かる様になる時が来るのかなと思いながら、日々丁寧に生きていきたいと思いました。 -
昭和初期、大学の夏期休暇を利用して遅島の現地調査にやってきた秋野。自然豊かなその島を踏み歩くなかで、彼はその壮大な自然とそこで生きる人々に魅せられていく。
何百年もの時を経て造り上げられた脈々たる森の自然―樹木を揺らす風、カモシカやうさぎや海鳥、木々の向こうに見える青々とした海面。そして時代の流れを経て朽ち果てた寺の跡。その歴史を語り、自然への敬意や賛美の想いを持ってその土地と生きる人々。
それから五十年の時を経て目にする遅島の今に、秋野は閉口する。
「喪失」はこたえる。そして人生は喪失の連続だともいう。
けれど悲観だけではない。人は自身のなかに喪失を蓄積し、悲観や空虚を超えた何かに気付く。さらに何があっても変わらないといえる自身の哲学が築かれる。
私自身のなかにも既に揺るがない哲学はある。けれどその哲学は日々の生活では頭の隅に追いやられていて、恐らく強く目の当たりにするのは打ちのめされるような「喪失」があった時だろうと思う。
年齢を重ねるごとに自身の考えは強固になり、時代の移り変わりに驚きと寂しさを感じる日が来るに違いない。そんな時にふとこの作品を思い出し、その自分の気持ちを抱き、不変なものに想いを馳せたいと思った。
背筋をしゃんと正し、澄んだ気持ちにさせてくれる作品。
~memo~
廃仏毀釈令、神仏分離令、色即是空 -
最終章,50年後本土と橋で結ばれた遅島。あの時代,日本各地で起こっていた開発という名の破壊が島でも進んでいた。島のカモシカも(ニホンアシカも)とっくに絶滅。しかも,開発には主人公の次男が関わっていた。
しかし,観光客の安全のために野生化したヤギを捕獲した結果,ハマカンゾウの群落は数十年を経て復活。石灰採掘場では仏教遺跡の出土が隠しきれないほどに。「海うそ」=蜃気楼は昔と変わらず現れ,主人公は妻を伴った再々訪を期する。
「村田エフェンディ滞土録」に似た雰囲気の作品だが,失われたものへの哀惜だけで終わらず,「再生」の可能性を残したラストに希望を感じた。色即是空の続きは空即是色なのだ(それもまた空なのだけれど)。
許嫁の死で閉ざされ,家族も寄せ付けなかった主人公の心の一部も,次男との会話の中で少しずつ開かれていく。両親への次男の暖かい目が好もしい。 -
-
梨木香歩さん、好きな作家のひとりです。「海うそ」、気になるタイトル......。装丁が綺麗ですね^^梨木香歩さん、好きな作家のひとりです。「海うそ」、気になるタイトル......。装丁が綺麗ですね^^2014/03/24
-
「気になるタイトル......。」
この言葉を巡って、どんな話が展開するか、今から待ち遠しい。。。「気になるタイトル......。」
この言葉を巡って、どんな話が展開するか、今から待ち遠しい。。。2014/03/24
-
-
西の魔女が死んだの作家とは、かけはなれた作品で驚いた。
人文地理学者が若い頃に、かつて平家の落人伝説がある島の住民に案内されて、修験道をたどり、島の歴史や植生、シカや野生のヤギ、チョウや鳥に魅せられていく。
親しくなった引退した男性の窓から見た
海うそ 、、、蜃気楼。
山や草いきれの香りが立つような作品。