幻談・観画談 他三篇 (岩波文庫 緑 12-8)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003101285

感想・レビュー・書評

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  • 江戸出身の作家である幸田露伴(1867-1947)の晩年の小説・随筆集。『幻談』(1938)『観画談』(1925)『骨董』(1926)『魔法修行者』(1928)『蘆声』(1928)所収。

    『幻談』僅か三十頁余に綴られた単純な筋の小品だが、出色。恰も名人話芸を聴いているかの如き名文。解説によると、口述筆記に基づくものだと云う、然も在りなん。露伴はどんな調子でこの物語を談じたのだろう。

    収録作品の其処此処に、「江戸」と云う時代が長らく堆積してきた感性が未だ人々の身体に沁み残っていた「東京」の空気を吸って育った露伴が生きてきたであろう「粋な遊び」のエートスが垣間見える。鷹揚としてせせこましからず、嘗て個人にも時間にも沁み渡っていた大らかで陰翳に富む「粋」という感性による悠然泰然とした「遊び」。対して、多くの現代人が享じているのは、依存症的「欲望」に背っ突かれ追い越されまいと強迫的に底無き欠乏に放り込む即物的で平板的な――嘗ての感性からは"野暮"と嗤われてしまうであろう――ただの「快楽」と云えないか。

    「遊客も芸者の顔を見れば三弦を弾き歌わせ、お酌は扇子を取って立って舞わせる、むやみに多く歌舞を提供させるのが好いと思っているような人は、まだまるで遊びを知らないのと同じく、魚にばかりこだわっているのは、いわゆる二才客です」(『幻談』)

    「理屈に沈む秋の寂しさ、よりも、理屈をぬけて春のおもしろ、の方が好さそうな訳だ」(『骨董』)

    「碁を打つ者は五目勝った十目勝ったというその時の心持を楽しんで勝とうと思って打つには相違ないが、彼一石我一石を下すその一石一石の間を楽む、イヤその一石を下すその一石を下すのが楽しいのである。・・・。何事でも目的を達し意を遂げるのばかりを楽しいと思う中は、まだまだ里の料簡である、その道の山深く入った人の事ではない。当下に即ち了するという境地に至って、一石を下す裏に一局の興はあり、・・・と思うようになれば、勝って本より楽しく、負けてまた楽しく、・・・。そこで事相の成不成、機縁の熟不熟は別として一切が成熟するのである」(『魔法修行者』)

    釣りや骨董等々風雅な趣味についての博覧強記、それを語る露伴の軽妙閑雅な文体は、今は無き感性の一つの見事な表れだ。彼の文体自体が、現代と云う時代精神に於ける貧困な感性への批判と云えないか。本書を読んで、今となっては漠として掴めぬ「粋」という美的感性や、「遊び」という人間的営為の本質とは何か、興味をそそられた。

    蛇足だが、「それは雲に梯の及ばぬ恋路みたようなもの」とは美しい比喩だ。

  • なんだかおしゃれな気分になる。
    文章を読む楽しみのような一冊。
    すっ、とひくように幕をひく感じがちょっとたまらない。

  • 観画談を読了。小説家に誘われ、よっこらやっこらついて行った旅の末に
    人生経験の意味・無意味についてトいう難題を背負わされちまった。
    ええ、背負っていきますとも。貧しい背中なれど、まだくたばりゃしめえ。

  • 2011/2/3購入

  • 以前から露伴の小品を読みたいな~と思ってたので岩波文庫を買ってみました。文字組みがゆったりしているし、現代仮名遣いに直してあるので、ものすごく読み易い一冊。これは読んで良かった。
    反面、歴史的仮名遣いでも読んでみたい気持ちに…。「幻談・観画談」ほどの良作だと原文で読める機会がほしいです。あと「対髑髏」が収録されてたら満点でした…!ちょっと長いけど!

  • 文章がとにかく巧い。
    何度読んでもその度にうなってしまいます。

  • 幻談・観画談・骨董・魔法修行者・盧声

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著者プロフィール

1867年(慶応3年)~1947年(昭和22年)。小説家。江戸下谷生まれ。別号に蝸牛庵ほかがある。東京府立第一中学校(現・日比谷高校)、東京英学校(現・青山学院大学)を中途退学。のちに逓信省の電信修義学校を卒業し、電信技手として北海道へ赴任するが、文学に目覚めて帰京、文筆を始める。1889年、「露団々」が山田美妙に評価され、「風流仏」「五重塔」などで小説家としての地位を確立、尾崎紅葉とともに「紅露時代」を築く。漢文学、日本古典に通じ、多くの随筆や史伝、古典研究を残す。京都帝国大学で国文学を講じ、のちに文学博士号を授与される。37年、第一回文化勲章を受章。

「2019年 『珍饌会 露伴の食』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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