- Amazon.co.jp ・本 (198ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003275016
感想・レビュー・書評
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『人形の家』は、ノルウェー出身のイプセンにより、1879年に出版および初演された戯曲。夏目漱石や太宰治など、いろいろな文豪に引用されていて、以前から気になっていたので読んでみました。
ノーラは、年明けに弁護士から銀行の頭取になることが決まっている夫と、可愛い3人の子供たちとクリスマスを迎えるのを楽しみにしていました。しかし、彼女はある重大な秘密を抱えており、それに関わる人物が家に訪ねてきて気が気でなくなります…。
タイトルから内容が想像つかなかったですが、ラスト15ページの怒涛の展開で「人形の家」の意味が明らかに。終盤の夫が見せた掌を返すような態度で、妻は気づいてしまった訳ですが、何もかも放擲して飛び出して行くのは展開が急すぎかな。人間扱い云々とありますが、この時代で外に飛び出しても、一度気づいてしまった疑問は違った形の不満となって覆い被さってくるような気がして、ノーラが不憫な気がしてならなかったですね。
追記 : 書いていてふと、エスター&ジェリー・ヒックス『サラとソロモン』の「ある場所や状況の中に悪いことがあるからという理由でそこを去るなら、次の場所に行っても、ほとんど同じことが起こるってことなんだ。」というセリフを思い出しました。ノーラに幸あらんことを。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
一時間くらいで読めた。
こんなに集中できるとは思ってもみなかった。
ひさしぶりに充実した読書だった。
◇
ノーラの、「仮装を脱ぐのよ」は最高の台詞の一つ。
その声のトーンは氷点下まで下がっているのに、夫はまったく気づかない。
「あたしたち、出会ってから一度も真面目に話し合ったことなかったわね」と妻に真顔で切り出されて狼狽える夫とか、悲劇というより完全に喜劇。
この夫婦あるあるが150年前からあったことが単純に笑える。
ノーラは人形の役割を本能的に受け入れて、完璧に演じている賢い妻だった。
ヘルメルさえ夫としての役割をあんな無様に放棄しなければ、ノーラは甘んじて人形を演じ続けただろう。
人形の家が不幸とは思わないし、夫婦のあり方の一つとして大いにありだと思う。
ただし男が女を人形扱いするのは、女が若くて綺麗なときだけなので注意。 -
ヨーロッパ、とくに北欧は男女平等、同権が進んでいるというイメージがあった。この「人形の家」は直接的な「差別」をテーマにしているわけではないと思うが、社会に根深い不平等な制度・意識は100年ちょっと前の北欧でも根深いものがあったのだろうと知る。
ノーラがサインを偽装せざるをえなかったのも、その後にその事実を隠さないと正当に生きていけないとノーラが思ったのも、やはり社会制度や意識がノーラに正しく生きさせることを許さなかった、と見るべきであろうか。
たいへん考えさせられる一冊。 -
子供と家を捨てて、自分を獲得するために動いたノーラは正しいのか?どちらとも言えない…。
最初、二人の会話の仲睦まじさから良好な関係にある夫婦だと思っていた。そう思わせておいて、あのような形で問題を投げかけてくることがうまいなと思った。
愛していることは確かなのに、潜在的に彼女を自分より下位である、守ってあげる存在だとしていたことが露呈したのが悲しい。
親子ならまだしも、夫婦間での力関係は今でも全然あることだと思うし、多分無意識に、そっちの方が円滑だからとか思って、悪く言えば隷属している部分もあるのかなと思ったり…。
上手くまとまらないけど、現代の夫婦観に思いを巡らせてしまう、良い刺激を受けた本だった。 -
まってこれってこんな面白い話だったの!?
大学生のときに読んだきり、
そして一応役者なので、エチュード的に一部はやったことがあるけど…
全然わかってなかった!!
やはり本ていうのは、読むときの年齢によって全然見え方が違うものですね。
仕事のために読んだけど、いま読んでよかった。
ノーラが馬鹿すぎて最初「イーッ!」てなったけど、
最後に「そういうことか…」と納得。
でも、自分の人格形成における失敗(?)の責任を夫や親に押し付けるのは趣味じゃないです。
しかし!それを最後に自分の正しいと思うように行動するノーラには快哉を叫ぶぞ!
後世に書かれたものだけど、森本薫の女の一生「誰が選んでくれたのでもない、自分で選んで歩き出した道ですもの。間違いと知ったら、自分で間違いでないようにしなくちゃ。」に通じますわ。 -
セリフのみで物語は展開していき、まるで舞台を見ているよう。
文字通り父の、夫の愛玩“人形”だったノラが家を出て行くまでのお話。夫のヘルメルはノラを慈しんでいるけれど、本当にただそれだけ。ノラの過去が明るみになったときにヘルメルが彼女に投げかけた言葉は…ノラは一生忘れられないだろうな。当時話題作になったのも納得。 -
当時の女性の悲痛な叫びを代弁したイプセンの功績は偉大だと思った。そしてそれは、150年が経った現在の日本においても共通の問題であると思った。
女性を守り、可愛がってやろうとする男性の考え方自体が女性蔑視であると同時に、そんな風に考えている男ほどいざ妻や恋人が本当にピンチに陥ったとき保身に走り守ってあげることはできないのではないかと思った。
考え方の違う男性と女性が、お互いを束縛しながら生活しなければいけない結婚生活の中で、どれだけ互いの価値観や考え方を尊重し、自由にさせてあげるかは世界共通の、そしていつまでも解決されない課題なのではないかと思った。
三幕に持っていくまでの話の展開の仕方や、最後の台詞まわしが秀逸で読み終わった後も興奮が冷めなかった。
あと、山口百恵は男性優位の風潮が根強く残っていた昭和におけるノーラのような存在だったのではないかと感じた。 -
ある夫婦のはなし。
女の人ってすごくずる賢くて、実はとんでもないことをしでかしているんだから!
と、わくわくしました。
女の人の強みと弱みをうまく使い分けたノーラがすばらしい。
たのしかった。
別れると決めたら、一歩も譲らない決意もかっこいい。 -
当時では斬新なフェミニズムを扱った小説であり、ストーリーもわかりやすい。ただ翻訳かつ戯曲であったため内容がすんなり入ってこず。可愛がることと人形のように思うままにしたいと思うこと。人形の家というタイトルは読後恐ろしく心に響き、小説の内容を忘れられないものにする
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出版時にこのような男女の関係を本として記すことが出来るその心に畏敬の念を持たせていただきたい。
戯曲を本としたものは初めて読んだので、会話を読み進めていくのが面白かった。
世間知らずということをしっかり認識し、責任をもつ主人公の姿には見習いたいと感じた。