根をもつこと(下) (岩波文庫)

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003369036

作品紹介・あらすじ

第二次大戦の敗北で根こぎとなったフランス、ヴェイユはそこに歴史の失敗と世界の変革の可能性を見た。不幸のどん底にある今こそ、国をかたどる真の霊感を鍛えるとき。一切の力の崇拝を拒み、美と正義と真理が一致する唯一無二の善を選ばねばならない。まったき従順のうちに世界は燦然と輝く-"弱さの聖性"という逆説に立脚する世界の構想。

感想・レビュー・書評

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  • 上巻は、ヴェイユが私的憲法草案を著すに際した基本理念(服従、名誉、秩序、言論の自由など)から始まり、労働者、農民、国民の、中世から続き第二次世界大戦敗戦に至るまでの「根こぎ」の過程と、根を取り戻すための実際的な要領を提案している。
    下巻は丸一冊分「根づき」について。
    敗戦という絶好のチャンスに、いかにしてフランス人に真理を重んじる霊感(これは魂とかそういう意味)を復活させるか。
    真理と科学・労働が現状いかに乖離しているか、その滑稽さなどをかなり辛辣に綴っている。
    ”いまこの瞬間つぎの二つの運命からの二者択一を迫ってみよう~”の下りは、ヴェイユの真理に対する崇敬の度合いと厳しさが一番よく出ているくだり。
    正直上巻の「根こぎ」は分析ばかりで退屈だったんだけど。

    ヴェイユの強さは半端じゃないな。
    目覚めさせられる部分もあり補強してくれる部分もあり、自分の人生に力強い味方を得たような気分。

    「考える」にあたって、善と正しさに興味を失ったら人間として終わりだと思っている。

    • 美希さん
      >fountainさん☆

      注釈は必要最低限しか読んでいないし、不勉強な部分が多いから(ヴェイユも初めてだし)まだまだ読み切れてはいない感が...
      >fountainさん☆

      注釈は必要最低限しか読んでいないし、不勉強な部分が多いから(ヴェイユも初めてだし)まだまだ読み切れてはいない感が自分の中にはあるんだけど、読むきっかけをくれてどうもありがとうです!
      2013/04/01
  • 下巻は第3部「根づき」の方法についての記述となります。上巻が「根こぎ」の悲惨な状態についての記述であったのに対して、下巻はいかにして人間が(特にフランス人を念頭においていますが)ふたたび根を張ることができるか、そして魂の糧を得ることができるか、についてのヴェイユの提案・主張が書かれていることになります。

    主張は正直難解に感じましたし、一言で説明せよと言われると非常に難しいのですが、ポイントとしては人間の生命維持に直結する労働に焦点をあてていることでしょう。またヴェイユの主張で面白いと感じたのは、思考は万物を動かしている必然性すらも支配できる、というコメントです。つまり世の中で起こっていることは思考(感覚含む)が現前化した事象であり、私のつたない理解ですが、何事も考え方次第であって、全ての事象が愛に満ちたものだと考えることで、仏教的に言えば彼岸の智慧と此岸の知恵が融合されるような感覚を述べているのかと思いました(一言で言おうとするとどうしても稚拙な表現になってしまいますが・・・)。

    本書を読んでハンナ・アーレントの「人間の条件」を思いだしました。アーレントは、望ましい人間像として、思考停止に陥る労働中心ではなく、政治や言論活動などの「活動」領域をもっと拡大すべきだと考えているのに対して、ヴェイユは、労働に思考を宿すことで霊的な根付きを生み出すべきだと主張します。私は個人的に両方正しい気はしましたが、もしかすると「根こぎ」にあっている人間に対する処方箋としてはヴェイユの方がより正しいのかもしれません(※根付きの状態になったらアーレントの処方箋のように活動領域を増やす)。本書は主に、ドイツに祖国を占領されたフランス人の立場から「根こぎ」の対策を論じているわけですが、「社会的、地理的、霊的な根こぎ」は現代社会においてもあちこちで起こっている問題だと思いますので、ヴェイユの主張は傾聴に値すると感じました。

  • 2016/6/5購入

  • 下巻。
    思考実験として非常に興味深く読んだ。
    キリスト教的な価値観に立ちながら、ヴェイユが求めていたのは仏教的な何かだったんじゃないのか、と思えてならない。

    仕方ないことではあるがとにかく訳注が多いw
    本編だけなら1冊に纏まってたよなぁ……(分厚くなるけど1冊でも良かったと思う)。

  • ヴェイユには特に関心を持っていないが、観念論に走ることなく、実際に工場で労働するなど誠実な行動と、その生活実感に基づいた言説には好感が持てる。
    この「根をもつこと」はヴェイユの晩年、第2次大戦下に、ナチス=ドイツに敗北した故国フランスからのがれ、亡命先で故国のための活動を志願したところ、戦後のフランスのために精神的支柱となるような本を書け、と言われて書いた本。ということらしい。
    上巻の第1部では、人間の義務や集団に関して、短い倫理的な考察が並ぶ。その後の章では、歴史における「力」の推移などが考察され、とりわけヒトラーをめぐる記述に興味ひかれる。
    「われわれのいだく偉大さの(誤った)構想は、まさしくヒトラーの全生涯に霊感を与えた構想にひとしい。」(p.58)
    なるほど、彼女が考察してきた文化史で育まれてきた「偉大さの構想」=力の論理が、ヒトラーを必然的に輩出するというのは正しいだろう。
    ふと、この「偉大さの構想」は現在の日本でも、いままさに人びとの間で成長し続けているのではないかという気がした。
    橋下徹氏が「日本に必要なのは独裁者だ」などと言い、その橋本氏を多くの人びとが支持している現在、われわれはアドルフ・ヒトラーを待望しているだけなのかもしれないのだ。
    小泉純一郎、石原慎太郎や、虫のようにわき出すネトウヨやその予備軍、ネットをかけめぐるもろもろの扇情的な言説。ヒトラーが出現することを、私たちは無意識のうちにねがっているのかもしれない。

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著者プロフィール

(Simone Weil)
1909年、パリに生まれ、43年、英・アシュフォードで没する。ユダヤ系フランス人の哲学者・神秘家。アランに学び、高等師範学校卒業後、高等学校(リセ)の哲学教師として働く一方、労働運動に深く関与しその省察を著す。二度転任。34─35年、「個人的な研究休暇」と称した一女工として工場で働く「工場生活の経験」をする。三度目の転任。36年、スペイン市民戦争に参加し炊事場で火傷を負う。40─42年、マルセイユ滞在中に夥しい草稿を著す。42年、家族とともにニューヨークに渡るものの単独でロンドンに潜航。43年、「自由フランス」のための文書『根をもつこと』を執筆中に自室で倒れ、肺結核を併発。サナトリウムに入院するも十分な栄養をとらずに死去。47年、ギュスターヴ・ティボンによって11冊のノートから編纂された『重力と恩寵』がベストセラーになる。ヴェイユの魂に心酔したアルベール・カミュの編集により、49年からガリマール社の希望叢書として次々に著作が出版される。

「2011年 『前キリスト教的直観 甦るギリシア』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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