原発はなぜ危険か: 元設計技師の証言 (岩波新書 新赤版 102)

著者 :
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  • Amazon.co.jp ・本 (194ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004301028

作品紹介・あらすじ

チェルノブイリの事故が世界に大きな衝撃を与えたにもかかわらず、日本の原発政策には何の変化も見られない。日本の原発ははたして安全なのだろうか。原発の心臓部である圧力容器の設計に携わった著者が、自ら体験した製造中の重大事故を紹介し、現在運転中の原発の問題点をえぐり出すとともに、脱原発のための条件を探る。

感想・レビュー・書評

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  • ▼福島大学附属図書館の貸出状況
    https://www.lib.fukushima-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/TB20137164

    (推薦者:人間発達文化学類 昼田 源四郎先生)

  • 東日本大震災
    原子力発電

  • 福島第一原発四号機についての証言。読めば読むほど原子炉が安全とは思えない。

  •  今、多くの書店で災害や原発の関連書籍コーナーができている。しかし3.11以降に出版されたものは内容が薄い印象があるため、もっと前に書かれたものを探して買ってみたのがこれ。

     発行は1990年なので21年前。福島第一原発ができてからの年数としてはちょうど現在の半分程度だった頃の本だ。しかしそこには、まるで今起きていることを予言していたような指摘が少なくない。薄いながら密度が高いため全文を引用したくなってくるが、指摘されている中で印象に残った「原発の問題点」は主に二つ。

     ひとつは、数値シミュレーションを拠り所に安全係数をギリギリまで下げているが、そのシミュレーションが不完全であること。コンピュータがまだ今のように高速で安価でなかった昔は、数値計算も全体については実施できず、職人の勘と経験でポイントを絞っていたという。

     もうひとつは、新しい研究により従来の安全基準に問題があるとして基準改定が何度も行われているのに、古い基準で作られた原発はそのまま運用され続けていること。現在の技術水準がいくら上がっていると言っても、40年前に作られた原発は40年前の基準と技術で作られている。

     そして、「パニックを防ぐために事故情報を隠蔽するという政府の姿勢」も、「検査によって問題がみつかると基準を緩和していたこと」も、「海岸にある原発は海洋汚染の危険があること」も、本書ですでに指摘されている。福島第一原子力発電所は、20年前に指摘されていたこれらの問題点が何も改善されないまま3.11を迎えたのだ。

     本書の締めくくりで著者は思想を語っている。それは、電力が不足するからといって発電設備をどんどん増強していくのではなく、エネルギー大量消費型のライススタイルを見直すことが大切だという主張だ。一度豊かな生活を味わった人がそれを捨てるのはとても難しいことだが、私たちは現在、否応なくそうせざえるを得なくなりつつあるのかもしれない。

  • 1990年刊行。元日立製作所子会社(原子力発電の原子炉圧力容器の製造)に所属していた著者による内部情報の提供本。材料工学や破壊力学の基礎知識が皆無なので、細かいところは読み飛ばしである。ただ、①絶対安全ということはあり得ない、②メーカーらはこれを強調しがち、③安全性検証に必要な情報開示が皆無であり、メーカー・電力会社のお手盛りを見つけるのが困難、④②と関係して、ダメ・コンの発想が皆無に等しい、⑤安全確保のための基準を、議論ないままに緩やかに変更する傾向、⑥開発時期の古いものは技術水準が低い、等はよく判る。
    本書指摘のとおり、・廃棄物処理方法の未確立、・廃炉技術の不存在、・クライシス・マネージメント(ダメージコントロールともいえようか)の不備のまま、見切り発車で建設設置している状態が、半世紀ほども続いているのが現状だろう。その帰結がフクシマと見てよいはず。特に、ダメ・コンの部分は強調しすぎることはない。ライフスタイルとも関わる問題だが、避けて通れないことを本書は問題提起している。また、安全性と、納期・コストという問題を抱える民間企業とは大きな隔たりがあるとの指摘も重い意味を持つのではないか。

  • 原発について、全然知らんなと思って手に取った。原発の製造やその安全性の大部分が、一製造メーカーに委ねられているとわかって驚いた。もっと国や専門家が管理、チェックしているものかと。著者である田中さんも述べているけれども、わたしたちが最終的に頼るしかないのは、国。というか、国の決定には従わざるを得ない(自分たちで選んだ政権だしね…)。その「国」には、製造メーカーにたちうちできる、原発について精通している人(現場を知っていたり、その安全性を確かに審査できる人)が少ないんですと。あかんやん。
    かといって、わたし自身は、エネルギーに依存した今の生活を見直すことができるのか。のほほんと生活している現状に、問題提起してくれた本だった。

  • 1990年に執筆された本をもっと多くの人々が読むべきであった。原発は以前から壊れて修理を何回もされており、大震災が起こったので壊れたのではない、ということがよくわかる本である。大きく壊れて被害が大きくなるまで電力会社も政府の何も言わないということである。

  • 福島第一原子力発電所4号機の製造上の作業のやり直しについて記載している。
    焼き鈍しについてわかりやすく説明している。

    福島第一原子力発電所1号機の「給水ノズル内面の熱疲労事故」と
    「事故がおこる数年前に、給水ノズルの基本構造が一変したにもかかわらず、それが福島第一,二,三号機などの古い原発の「構造見直し」につながらなかったという事実である。」

    「多くの時間をかけ、最新の理論とコンピュータを駆使しておこなわれる詳細応力解析も、結局,「その程度のもの」でしかないのである。使う理論そのものは客観性をもっていても、いざそれを使って解析する段になると、すでに述べたように、そこに解析担当者の主観に依存したさまざまな推論や仮定が混入してくる。そしてそれらが現実とかけ離れているとき、いとも簡単に先のような事故が発生する。」

  • 国会事故調査委員でもある田中光彦さんの1990年の著作。技術論から原発の危険性を問うているが、印象に残ったのは最終章で「最大の問題は、環境との関係を積極的に断ったこうした閉鎖的な人口空間をわれわれが快適と感じていることだろう。」と述べている部分だ。脱原発とは我々文明に依存した現代人の生き方の転換を迫るものだという気持ちを強く持った。

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著者プロフィール

1943年、日光市生まれ。1977年に原発設計技師として9年間勤務した民間会社を退社後、吉福伸逸主宰のC+Fコミュニケーションズに席を置き、主として「ニューサイエンス」の海外書籍の翻訳や、米国の科学雑誌Popular ScienceやOMNI の日本語版の編集や執筆に携わる。88年C+F解散後は、科学系の翻訳、評論、執筆活動を展開。2011年12月〜12年7月、福島原発事故に対する国会事故調委員として原因調査にあたった。2013年、居を東京から八ヶ岳北横岳山麓に移す。
著書に『原発はなぜ危険か』(岩波新書 1990)、『科学という考え方』(晶文社 1992)など。
訳書(含共訳)にF・カプラ『タオ自然学』(工作舎 1979)、F・カプラ『ターニング・ポイント』(工作舎 1984)、M・ワールドロップ『複雑系』(新潮社 1993)、A・ダマシオ『感じる脳』(ダイヤモンド社 2005)、同『デカルトの誤り』(ちくま学芸文庫 2010)、同『意識と自己』(講談社学術文庫 2018)、L・ムロディナウ『たまたま』(ダイヤモンド社 2009)などがある。

「2021年 『ホロン革命 部分と全体のダイナミクス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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