山の自然学 (岩波新書 新赤版 541)

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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004305415

感想・レビュー・書評

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  •  たとえば、北アルプスの白馬岳でコマクサを見たとします。そのとき、「あっ、コマクサだ。きれいだなあ。写真を撮ろう」で終わるのではなく、「どうしてここにコマクサがあるのだろう?」と考えると、<山の自然学>がはじまります。(まえがきより)
     山はみごとな風景を楽しみ、高山植物の美しさを愛でるだけでも十分に楽しい。それだけでいいという人もいるにちがいない。だから、「なぜ」などと考えるのは、めんどうくさくてかなわないという人も少なくないだろう。これはもう趣味の問題だから、その人なりの楽しみ方でもちろんいいのだが、本書で紹介したような知的な登山の面白さもぜひ味わっていただきたいと私は思う。(あとがきより)

  • 日本各地の山の植生帯を地質や気候変動の歴史から解説。

    ・サハリンが日本の領土でなくなり、良質の針葉樹が輸入されなくなってから、製紙業界は広葉樹を用いはじめた。
    ・かんらん岩はアルカリ性の強い土壌をつくりやすく、蛇紋岩植物が分布する。
    ・日本海側の鳥海山、月山、朝日岳、飯豊山には針葉樹林帯が欠如し、代わりにイネ科草原やお花畑などの偽高山帯が分布する。後氷期の多雪化によって針葉樹林が滅亡したと考えられる。
    ・日光の戦場ヶ原では、活発な蒸散を行うズミが侵入して湿原の乾燥化が進んでいる。
    ・富士山では、本来ハイマツが現れるあたりにカラマツが分布する。
    ・南アルプスでお花畑が見事なのは、四万十層群の堆積岩または変成岩が風化してつくられた岩屑が、安定し通気性や保水性がいい土地をつくっているため。
    ・1914年の桜島の大噴火は、日本で記録が残っている噴火の中で最大。噴出した溶岩(大正溶岩)は20億m3で、浅間山の天明の噴火の10倍。1815年のタンボラ火山の噴火の噴出物の量は1500億m3。2万2000年前の姶良火山の噴出量は4500億m3で、シラス台地と鹿児島湾をつくった。

  • 山の自然がどういう風にできているのかを教えてくれる本。

    気候、地層、地質、地形、植物とを結び付けて考えることで、
    ばらばらに見えていたものがひとつにつながる爽快感があります。

    とは言え体系的に語っているわけではなく、
    様々な山のいまの有り様のそれぞれを解説する形で進むので、
    登山をした経験がない人が読んでもいまいちかもしれませんね。

    インターネットで木や花の名前を検索しつつ、
    ああ、あの山がああいう風になっていたのにはこういう訳があったのかと、
    自分の記憶と知識を結び付け楽しむには最適の本だと思います。

  • 日本各地の山を取り上げて、なぜ何の話題を提供

  • 山の地形、地層、それに伴う植生について。北は礼文島から南は屋久島まで代表的な物を取り上げて分かりやすく書いてある。
    山を登る前に読んでおくと楽しみが増えるかも。日本固有の環境について、海外と比べて言及している。この本によると、日本の山は基本的に標高で考える以上に厳しい環境らしい。逆を言えば、低い山でも高山帯の植生が観察できる貴重な環境ともいえる。
    うーん、山に行きたい!

  • [ 内容 ]
    お花畑を楽しんでいると雪渓があらわれ、岩のゴロゴロした道があるかと思えば、両側の切り立った鋭い痩せた尾根に出たりする。
    多彩な美しさに満ちた日本の山の自然はどうしてできたのだろうか?
    日本各地の山をとりあげて、植物分布や地形・地質に不思議を存分に語った自然学入門。
    山歩きがいっそう面白くなる!
    収録図版多数。

    [ 目次 ]
    氷河時代の植物群―礼文島・東ヌプカウシヌプリ
    火山と永久凍土―大雪山
    端正な氷河地形と豊かな高山植物―日高山脈
    ブナ林が貴重である理由―白神山地・真昼山地
    森林限界がなぜ低いか―早池峰山
    コマクサと樹林と湿原と―岩手山・八幡平
    残雪そして偽高山帯―月山・飯豊山・鳥海山
    雪崩がつくる滑り台―谷川岳・御神楽岳・越後三山
    湿原と自然保護―尾瀬ヶ原・戦場ヶ原
    風食地形と植物相―平標山・羽後朝日岳〔ほか〕

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 山の植物・地形・地質・地球史レベルの生い立ちなど、山の愉しみ方を総合的な視点で語る本。登山の経験はほとんどないが、想像の世界で山の景色を愉しめる。感覚的な山の景色の美しさを語られるより、この本のように学術的・学問的(でも専門的ではない)切り口で語られたほうが、素人には山の素晴らしさが通じやすいかもしれない。

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著者プロフィール

1948年、長野県生まれ。東京大学大学院博士課程単位取得退学。理学博士。
専門は自然地理学、地生態学。現在、東京学芸大学名誉教授。著書に、『日本の山ができるまで』(A&F出版)、『地生態学から見た日本の植生』(文一総合出版)、『山の自然学』(岩波新書)、『日本の山と高山植物』(平凡社新種)など。

「2022年 『日本の自然風景ワンダーランド』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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