SDGs――危機の時代の羅針盤 (岩波新書 新赤版 1854)

著者 :
  • 岩波書店
3.30
  • (8)
  • (15)
  • (22)
  • (8)
  • (3)
本棚登録 : 333
感想 : 42
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004318545

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 最近耳にするSDGs、なぜこんなに盛んに言及されるようになったのか、
    自分達はSDGsにどう向き合っていけばいいのか、そういうことを考えてしまう人にはおすすめしたい。

    近年の自然災害規模の甚大さを受けて、我々が環境に対する関心が高まっているというのも環境問題への取り組みを含んだSDGsのブームの一因ではある。
    が、ESG投資の興隆に伴い、ビジネスとして環境への取り組みが真ん中に据えられたことが大きい。同じような取り組みとしてCSRもあったが、それはどちらかというと、ビジネスの周縁の取り組みのような存在だったように思う。
    民間企業が本腰をいれるようになったのが、SDGsのブームの大きな一因であるといえる。

    また、あまりにも多すぎると思われがちなゴールと目標も実は大きな意味を持っている。
    17のゴールと169のターゲットがあることによって、どれかには必ず自分達が当てはまるというのが世界的にも大きな関心ごとになった要因となっている。
    前身MDGs(そもそもこの単語を本書を読むまで知らなかった)ではどちらかというと途上国の発展、飢餓・貧困の根絶が謳われ、じぶんごとではない先進国での関心は低かった。その反省を生かし、今回のSDGsは先進国でも発生する相対的貧困や地域格差など国の中の問題にも焦点が当たっている。
    MDGsの反省を踏まえた包摂度の高さがターゲットの多さになっているのだが、その包摂度の高さこそが世界のあらゆる国・地域のあらゆる立場の膨大な数の人々の参画によるSDGsの成立を成功させたといえる。つまりみんながみんな自身の関心ごとをSDGsの中に見ることができたので、成立できたと。(筆者が外務省勤務でまさにこのSDGsの交渉担当であり、国連会議の決議までのリアルな動きが記述されているのも本書の特徴の一つである。)
    まさにこれは我々個人にも適用される。つまり、17のゴール、169のターゲットから、自分達の関心や興味、問題を踏まえて選び取ればいい。関心や興味などがまだ漠然としている人はSDGsのターゲットや取り組みなどを見て、どれが一番関心があるかを考えてみる、問題の見取り図としての機能も果たす。

    なにか急に現れたSDGsというカタカナ語に毛嫌いせず、少し中をのぞいてみる、そのための一歩に本書はなり得ると思う。

  • SDGs策定までの道のりや、SDGsの活用例等が掲載されている。
    個人的に面白いと感じたのはSDGsのそれぞれのゴールの関連性と地方創生のお話である。SDGsのそれぞれのゴールは相関しているが、それはあまり世の中に周知されていない感覚がある。SDGsの投資基準等の概念であるESGでは、Eの環境問題への取り組みや脱炭素に関しては理解できるのであるが、Sの不平等の是正や、GのガバナンスがEにすぐには結びつかないと考える人もいるであろう。本書では、この部分についてレジリエンスを高めるためと説明している。資源が不均等、非効率に配分されている社会は、気候変動などの地球の限界に関わる危機や急性感染症などのその他のグローバルな危機に対して弾力性や回復力が十分にない、脆弱性を抱えた社会である。Eに取り組む前提として、SやGが必要であるという考え方である。ESGはこれまで不可視であったが重要と考えられていた概念を言葉にしたものである。私の好きな宇沢弘文氏は『自動車の社会的費用』の中で、何十年も前から、カーボンプライシングについて言及しているし、『社会的共通資本』でもSの在り方について述べている。資本主義はこれまで外部を作り出し、外部にコストを移転することで成長してきた。兼ねてより公害問題等は外部不経済と言われてきたが、我々の生きる世界に外部は存在しない。経済学における外部とは数値化できないというだけのことである。環境問題は危機的な状況であり、今後日本でも気温上昇により熱帯地域での感染症等が発生する可能性もある。そうした危機の時代の中で、社会が立ち向かうためにはレジリエンスが必要であり、レジリエンスを高めるためには根本的な不平等の是正や情報の開示が求められている。
    地方創生と言う観点であるが、個人的な感覚としてはローカリゼーションとグローバリゼーションはウロボロスの蛇のように、突き詰めると繋がってくるのではないかと感じた。地方における社会課題の解決に、SDGsの言葉を当てはめて進めている地方自治体もある。国家という枠組みの中では解決できていない概念は地方ではあきらめられていたが、SDGsという言葉を活用することで世界性をもった取り組みになるというある種逆説的な動きにはミュニシパリズムの流れも感じる。

  • SDGsがどのような交渉過程を経て、2015年9月25日に成立したかなどを、日本の首席交渉官だった南さんとNGOの取りまとめ役として政府との交渉に関わった稲葉さんによる共著で書かれていた。SDGsはコロンビアの1人の役人がまず訴えたことから始まり、ゴールの数や内容で途上国や先進国の主張のぶつかり合いなど、多くの交渉と妥協を経ていたことがとてもわかった。外交をやっている中での、作者の感情も綴られていて、意外とガチガチではなくお互い様子を見ながら交渉していることがわかり面白いかった。
    SDGsは2030年までなので意外と時間はないが、少しでも何か貢献できたら嬉しい。

  • SDGs策定に関わった政府交渉官とNGO活動者という二人の第一人者によるSDGs解説本

    SDGsの意義については理解を深めることができた.
    ここで掲げた課題を一つでも解くことは世界全体というマクロ視点で意味があり,また,市民生活(ミクロ)にも影響が不可避.それ故に国/自治体/民間企業といったあらゆるレイヤーでSDGs活動が展開されていることも頷ける.
    まさに”SDGsは現代における社会問題の地図"

    気になったのは.以下の2点である:
    1.SDGs策定の苦労話
    この著者しか書けないという意味ではこの本ならではな内容ではあり,国際政治における利害関係調整の大変が滲み出ているが,私がこの本に求めたことではなかった.

    2.事例紹介とそこからの論理展開

    地方自治体や途上国を取り上げた事例がいくるかあり,
    内容も細かいが,ジャーナリストが書く読み物的な面白さは乏しい.

    また,SDGsというマクロな話に対し一個別事例を強調して取り上げ,「だからSDGsなんだ」という論理展開がやや強引に見える.
    例えば,地方自治体の復興活動事例はいうならば「他の自治体とのモノ・モノ・カネというリソースの奪い合い」だ.そこでは日本というパイそのものの縮小をなんとかしないといけないというもう一つ大きな視点を無いことになっている.そこに目を瞑り「だからSDGsなんだ」とまとめるのはいかにも政治家っぽい思考回路を感じる.

    難しい問題であるのはわかるので特効薬的な解決策をすぐに求めるという贅沢は言わないが,少なくともより上位の懸念としてそういう問題も認識しているというポジショニングはあって然るべきだろう.これら事例を見るとSDGsは各自が自分のポジショントークを押し通すための補強財にすぎないという印象を受ける.
    この視点をで持てなければ地球規模の問題解決なんて絶対にできない.
    (人間が集まる時点で対立は不可避だから本当に難しいのは理解する)

    壮大・抽象的・挑戦的・全体最適的な夢を描き,言葉にするという意味でSDGsは一つのアウトプットとして意義あるものとわかった.次に問われるのは実行と成果だろう.

    実行と成果に至る過程において日本や日本の民間企業に求める指針や取り組みの全体感的なものを掴みたかったが,自分の理解力不足か,そこになんか答えらしきものは見いだせなかった.
    (答えがあるという前提自体がナンセンスで問い続けトライアンドエラーをしていかないといけないという側面もあるだろうというのはわかりつつも,少なくともこの著者からは第一人者としての見解・ビジョンは期待したかった)

    ===============================ーー
    ・SDGsの概要
    ・SDGs策定の背景
    ・日本におけるSDGs推進
    ・SDGsの今後

    その命題成り立ってなくない?という記述が早速冒頭にかかれ腑に落ちない。この領域で飯を食ってきたキャリア官僚が書いた本だからポジトークになるのはしょうがないか…?
    ロジックのゴリ押しが政治家身を感じる.

    SDGs 策定にあたっては政治家や官僚だけでなく民間財団や民族、障害者などが"全員参加"し議論→オモテ世界における共通善と表現しても差し支え無さそうではある。

    途上国も先進国もどちら自分のペースで自分でオーナーシップを取り各活動を推進。
    条約のような強制力はない。

    17のゴール、169のターゲット、232の指標

    「貧困をなくす」が一丁目一番地

    "SDGsは現代における社会問題の地図"

    グローバル全体での再分配の仕組みは無い。グローバル企業の大儲けが野放し

    内閣官房にSDGs推進本部 半年に一回会合

    2016年日本は地球2.67個分の資源を年間消費(アメリカは4.97, 世界全体は1.69)

    エイズ治療薬の知的財産権を持つ製薬企業ー>薬価が高すぎて患者が薬を手に入れられず,命を落とすー>社会的責任(CSR)を果たさないとして投資家から忌避ー>企業が知的財産権から得られる利益を諦め,薬の流動性UP

    日本で消費されるチョコの8割はガーナ産

    途上国政府が経済特区を設立ー>飲料メーカーが参入ー>地域の真水や収穫したフルーツで作る飲料より安く自社の清涼飲料水を途上国に普及できる状態にー>皆,価格が安い砂糖たっぷりの清涼飲料水を水の代わりに飲み,肥満をはじめとした健康問題へ.
    (確かにむかーし中国に行った時,清涼飲料水の安さにびっくりした記憶が)

    グリーンボンド:
    リスクとリターンという2軸に加えて社会的インパクトを加味して投資先を決めるというナラティブに合致した概念.(ESG,SDGs…)

  • 桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPAC↓
    https://indus.andrew.ac.jp/opac/book/639376

  • 国内も海外も悲鳴をあげたくなる地域がある。打開に取り組もうと尽力される方の声や知恵は凄いものだと感じる出来事(事例)を本書でいくつか知った。本当は入門書的な本を手にしたかったのだが、結果として頭より胸で感じた良質なSDGs読本だった◎

  • 摂南大学全学共通プロジェクト
    摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB50219460

  • 「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」が登場する前、SDGsは日本の経済界・地方自治体・政府などの注目を集めていた。SDGsは「危機の克服」のために作られた目標であり、COVID-19の登場による危機の時代である今、SDGsの「真の価値」が問われている。これまで日本はSDGsの認知率が低く、認知している層もビジネス・パーソンに偏っていた。認知度の高いビジネス・パーソンでも「建前」のようにとらえられている面も考えられる。本書ではSDGsの「危機の時代を導く羅針盤」としての価値を紹介している。

    COVID-19による危機によって一時は忘れ去られそうになったSDGsを、本来の目的である「危機の克服」に着目し、とらえなおしています。本来のSDGsの成り立ちやゴールについて知りたい、SDGsについての理解を深めたい場合にお勧めできる一冊です。

  • 配置場所:2F新書書架
    請求記号:333.8||Mi 37
    資料ID:C0040087

全42件中 11 - 20件を表示

著者プロフィール

ジャズ・ピアニスト、作曲家、エッセイスト
1960年東京生まれ。1986年東京音楽大学器楽科打楽器専攻卒業。
ピアノを宅孝二、クリスチャン・ジェイコブ、スティーヴ・キューンに師事。1988年バークリー音楽大学から奨学金を得て渡米。ボストンを拠点に活動する。1991年バークリー音楽大学パフォーマンス課程修了。1990年代からはスイス、フランス、ドイツ、デンマークなどに活動の範囲を拡げ、ヨーロッパのミュージシャンと交流、ツアーを敢行。国内では自己のグループ「GO THERE」をメインに活動、綾戸智恵、菊地成孔、ジム・ブラック、クリス・スピード、与世山澄子との共演でも知られる。
文筆にも定評があり、著書に『白鍵と黒鍵の間に──ジャズピアニスト・エレジー 銀座編』(小学館文庫)、『鍵盤上のU.S.A.──ジャズピアニスト・エレジー アメリカ編』(小学館)、『マイ・フーリッシュ・ハート』(扶桑社)、『パリス──ジャポネピアニスト、パリを彷徨く』(駒草出版)がある。

「2021年 『音楽の黙示録 クラシックとジャズの対話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

南博の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
小川 哲
出口 治明
アンデシュ・ハン...
鈴木 哲也
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×