ウクライナ戦争をどう終わらせるか 「和平調停」の限界と可能性 (岩波新書 新赤版 1961)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (212ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004319610

作品紹介・あらすじ

ロシアによるウクライナ侵攻開始から1年。核兵器の使用も懸念される非道で残酷な戦争を終結させる方法はあるのか。周辺国や大国をはじめとする国際社会、そして日本が果たすべき役割とは何か。隣国での現地調査を踏まえ、ベトナム、アフガニスタン、イラクなど第二次世界大戦後の各地の戦争・内戦を振り返りつつ模索する。

感想・レビュー・書評

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  • 題名通り、ウクライナ戦争をどう終わらせるか、その困難さ、そして日本に何ができるのかが書かれている。

    戦争を終わらせるには、「軍事的勝利」か「交渉による和平」しかない。ロシアに対して軍事的勝利をするのはあまり現実的ではない。したがって、交渉するしかない。一度は和平案が出されたものの、頓挫してしまった。今のままでは戦争は長引きそう。

    日本に何ができるのか、軍事支援はできないので、難民支援がメインになる。難民の「自立と安定」を支援する。アフガニスタンで中村哲氏が行ってきたようなことをする。

    目新しさはあまりないが、これまで侵略の被害にあった国々を取材してきた著者の言葉はとてもわかりやすかった。

  • 「ウクライナ戦争をどう終わらせるか」東大作著、岩波新書、2023.02.21
    198p ¥1,012 C0231 (2023.12.25読了)(2023.12.15借入)
    副題「「和平調停」の限界と可能性」
    ウクライナ戦争は、いつ頃どのように終わるのでしょうか?
    著者の予想は、プーチン大統領が政権を握っている限り戦争は終わらないだろうと言っています。ウクライナの現実的な戦争終結の条件は、2022年2月24日の状態まで戻すこと、ということです。クリミア半島とウクライナ東部の親ロシア派の占領地域を認めるということになります。
    僕の個人的な希望は、プーチン大統領が長引く戦争に嫌気がさして2024年の大統領選挙には出馬せず、自分の意をくんで動いてくれる人を指名し、戦争終結に持ってゆく、ことです。

    【目次】
    はじめに
    第1章 ウクライナ侵攻と、世界大戦の危機
    第2章 これまでの戦争はどう終わってきたのか―第二次世界大戦後
    第3章 和平調停・仲介の動き
    第4章 経済制裁はどこまで効果があるのか
    第5章 戦争終結の課題と、解決への模索
    第6章 日本のウクライナ難民支援―隣国モルドバでの活動
    第7章 今、日本は国際社会で何をすべきか―深刻化するグローバルな脅威と日本
    おわりに
    参考文献

    ●プーチン大統領は戦争の目的を見失っている(15頁)
    「プーチン大統領は当初、ゼレンスキー政権を瞬く間に崩壊させ、傀儡政権を樹立できると考えていました。それが困難と分かり、北部側から軍を撤退させた後は東部や南部の戦線も含め狙いが定まっていません。まさに「場当たり的」な対応に終始しています」
    「プーチン大統領自身が、戦争の目的を既に見失っている」
    (トルコ、ボアジチ大学ギュン・クット准教授の話)
    ●穀物輸出合意(63頁)
    イスタンブールに、トルコ、国連、ウクライナ、ロシアによる「経同調性センター」が設置され、その四者のスタッフが、ウクライナに出入りするすべての船をチェックし、武器などがウクライナに運ばれていないことを確認し、穀物をオデッサ港などで積み込み輸出している。(2022年7月に合意し、8月から実施)
    ●経済制裁の影響(69頁)
    ニューヨーク・タイムズ紙は2022年9月5日、米政府高官の話として、「ロシアが北朝鮮から数百万単位のロケットや弾薬を購入する手続きを進めている」ことを明らかにし、「北朝鮮のような国に頼らざるを得なくなっているのは、国際的な制裁によって、武器や弾薬の不足に陥っている明らかな証拠」と報じている。
    ●停戦ライン(87頁)
    キッシンジャー氏は「容易に解決できない状態に陥る前に、この戦争を終わらせるよう、今後二か月の間に交渉を始めるべきだ」と主張した。そして、「できれば、今回の戦争が始まる前のラインまで分割ラインを戻せれば理想的だ」という趣旨の発言をした。(2022年5月23日、スイス・ダボスの世界経済フォーラム)
    ●クリミアの帰属(93頁)
    もしクリミアの帰属をも軍事的に決着させるということになれば、プーチン大統領が権力を握っている間、また仮に、プーチン大統領が失脚した後も、戦争が続いていく可能性が高くなる。

    ☆関連図書(既読)
    「プーチンとG8の終焉」佐藤親賢著、岩波新書、2016.03.18
    「犯罪被害者の声が聞こえますか」東大作著、新潮文庫、2008.04.01
    「平和構築-アフガン、東ティモールの現場から-」東大作著、岩波新書、2009.06.19
    (アマゾンより)
    ロシアによるウクライナ侵攻開始から1年。核兵器の使用も懸念される非道で残酷な戦争を終結させる方法はあるのか。周辺国や大国をはじめとする国際社会、そして日本が果たすべき役割とは何か。隣国での現地調査を踏まえ、ベトナム、アフガニスタン、イラクなど第二次世界大戦後の各地の戦争・内戦を振り返りつつ模索する。

  • 戦争のキッカケはよく耳にするけど、終わらせ方はあんまり知らない……ってことで読んでみた。

    他国の評価とか気にせんでええ時代は、ぶちのめして無条件降伏させられたけど、今の時代はムリ。
    現実的には、
    ・お互いが妥協できるであろうラインまで国境を戻す(ロシアvsウクライナなら2/24ライン)
    ・譲れない領土は◯年かけて交渉、と実質棚上げにしといて、戦闘は停止する(クリミアなど)
    がいいんじゃね?とのこと。

    あと、戦争をしている指導者を「戦争犯罪で裁きます!」って宣言しちゃうと、裁かれたくない指導者はもう突き進むしかなくなるので、そのへんはやりすぎちゃダメ。
    ・指導者が死ぬ
    ・政権交代or権力者の交代が起こる
    のを待ちましょう。

    経済制裁は効果があるかもしらんけど、第三国目線としては「ぼくたちはこの国に反対でーす」「こういう国々と足並み揃えまーす」ってアピールが大きいんじゃないのかなぁと、個人的に思った。
    効果的に使うなら「◯◯をしたら(やめたら)制裁解除します」って条件の提示が必須。

    面白かったのは、江戸時代の灌漑技術が、第三世界でとても役に立つこと。
    最新の技術で灌漑工事しても、現地の人には修理できん。なるほど。
    これは故・中村哲医師が中心となって推し進めて、成果をあげているらしい。
    新しいものが必ずしも役に立つわけじゃないというのが新鮮だった。

    とっても面白い本でした。
    馬鹿なわたしが噛み砕いて書いた感想は以上です。

  •  書名どおり、この戦争終結への道を、限界も含めミクロな要素から見ていく。
     まず、WWII後のベトナム、アフガン、イラクなどの例から、大国が小国に軍事侵攻・介入し思いどおりの政権を立てるのは困難で、何らかの和平交渉や和平合意を経て撤退してきたとする。
     その上で著者は、3月末にウクライナとロシア両国が少なくとも交渉団レベルで合意した和平案を重視。ロシア軍が2.24前のラインまで撤収、クリミア半島は別途協議という内容である。しかし、ブチャでの民間人殺害が明らかになり交渉は潰え、更に夏以降は西側からの圧倒的な軍事支援によりゼレンスキー政権の目標がクリミアの軍事的奪回に変化してしまったが。
     経済制裁は、著者は限界を認めつつもこの戦争での国際社会の手段の1つであるとする。ただし、同時に制裁解除の条件の明示が必要だと述べる。
     戦争犯罪や戦争賠償の問題は難しい。「正義」を徹底させるためには厳格に、となろうが、それで却って戦争終結が遅れる可能性を著者は指摘。著者が紹介するICC設立後の事例研究はまさにそれだ。
     日本への示唆としては、著者のモルドバでの現地調査も踏まえ、難民支援など地道な現場支援と共に、対話の促進者たる「グローバル・ファシリテーター」となるべきとする。

  • 紛争の調停現場で活躍されていることもあり、交渉の困難さなどがわかりやすくまとめられていました。ただ最終章のまとめ方はやや飛躍しすぎに感じます。

  • 現在、非常に大きな問題となっているウクライナでの戦争を入口にしながら、軍事紛争に苦しんでいた状況の解決と事後の様々な事柄、そうした関係地域での日本の国際協力の経過というような幅広い話題を取上げ、ウクライナでの危険な状態を脱することを期したいとする内容で、読み応えが在る一冊になっていると思う。
    「戦争の終わらせ方?」というようなことは、辞書や百科事典に載っているようなことでもないのかもしれない。が、「戦争が終わる」というのは、「何れかの陣営が軍事的に勝利」というような第2次大戦のような状態でもなければ「交渉による和平合意」ということにしかなり得ない。ロシア側が<特定軍事行動>と称する「侵攻」に端を発するウクライナでの戦争も、とりあえずは「交渉による和平合意」を目指す他に無いのかもしれない。そういうことで、少しの間模索された停戦合意の経過、それが沙汰止みのようになった後の経過等を本書では論じている。更に、色々な事例や、幾人かの論者が取上げている論点を紹介し、「戦争犯罪」なるモノの取り扱いを巡る事柄も取上げている。こういう事柄を論じている例は余り知らず、少し参考になった。加えて「経済制裁」に関する事も広く論じられていた。
    既に戦争は1年も経ち、ウクライナ各地の民間人の間では子ども達に至る迄、戦争状態が日常化してしまうような状況に陥っている。少しでも早く停戦への動きが加速して頂きたいものだ。そして戦禍で荒廃してしまった国を建直すというような動きの中、様々な国際協力の模索ということも在るであろう。そういう国際協力ということに関して、日本は存外に豊富な経験を有しているということも本書では紹介されている。
    残念ながら、開戦から丸1年を経て、停戦の動きは未だ視えない感である中だが、それ故に本書には「とりあえず読むべき!」という内容が込められていると思う。出逢って善かった一冊。御薦め!

  • 第二次世界大戦後の紛争がどのように終結したのか、日本がどのような支援をしてきたかなど、知らないことばかりでした。

  • ウクライナ戦争をいかに終わらせるか、破滅的な核の応酬や経済圏の分離も見据えつつ、プーチンがいても失脚してもなんとか外交的解決策を模索することの重要性を説いている。
    ベトナムやソ連のアフガン侵攻など過去の戦争終結を振り返り、大国の撤退こそ終結の道とする。和平調停は国連よりも大国や周辺国の力の方が有用で、レバレッジを有する国が仲介に乗り出す必要がある。経済制裁はやたらめったらやればいいというものではない。
    ブチャでの虐殺が明らかになる前には、和平交渉が形になりかけていたと初めて知った。日本の支援や、中村哲さんのアフガニスタンでの功績はこの本を読むまでなんとなくしか知らなかった。タリバンに政権が移ってから、確かに女性を抑圧したりはあるかもだが、日本のNGOともうまく連携しているんだな。

  • 本書には書かれていないが、開戦を巡ってはウクライナ側にも避難されるべき事実関係がある。
    ウクライナの歴史を学ぶと、ソ連のスターリン時代にロシア人に対して深い遺恨があることかずわかる。
    ウクライナ人は最後の一兵となるまで戦うことになりそうだ。
    そして、遺恨を利用する軍需産業が大笑いするという構図だ。
    もちろん、開戦して罪のないロシア人を無駄死にさせているプーチンも大馬鹿である。

  • ウクライナを取り巻く現状がよくわかった。

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著者プロフィール

1969年(昭和44年)、東京都に生まれる。NHKディレクターとしてNHKスペシャル『我々はなぜ戦争をしたのか ベトナム戦争・敵との対話』(放送文化基金賞)、『イラク復興 国連の苦闘』(世界国連記者協会銀賞)などを企画制作。退職後、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学でPh.D.取得(国際関係論)。国連アフガニスタン支援ミッション和解再統合チームリーダー、東京大学准教授、国連日本政府代表部公使参事官などを経て、現在、上智大学グローバル教育センター教授。著書に『我々はなぜ戦争をしたのか』『犯罪被害者の声が聞こえますか』『平和構築』、Challenges of Constructing Legitimacy in Peacebuilding、『人間の安全保障と平和構築』(編著)など。

「2020年 『内戦と和平 現代戦争をどう終わらせるか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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