聖徳太子――ほんとうの姿を求めて (岩波ジュニア新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784005008506

作品紹介・あらすじ

誰もが知っているのに、謎だらけの存在、聖徳太子。偉人か、ただの皇子か、「聖徳太子」か「厩戸王」か…、彼をめぐる議論は絶えません。いったいなぜそんな議論になるのでしょう。問題の根っこを知るには、歴史資料に触れてみるのが一番。仏像、繍帳、お経、遺跡などをめぐり、ほんとうの太子を探す旅に出かけましょう。

感想・レビュー・書評

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  •  聖徳太子は敏達三年(五七四)、敏達天皇の異母弟、大兄皇子(橘豊日尊、後の用明天皇)と穴穂部間人皇女の長男として生まれ、推古三十年(六二二)に数え年四十九歳で亡くなった。
     聖徳太子に関する史料のうち、久米邦武氏が最も高い評価を与えたのは、編集作業を経ていない史料、すなわち法隆寺金堂にある薬師如来像の銘や、同じく釈迦三尊像の光背に残された銘文などである。
     金堂釈迦三尊像の光背の裏側には、太子の冥福を祈るための像だという、いわれを書いた銘が、漢文で一九六文字も刻まれている。
     本書においても、金堂釈迦三尊像の光背部の文字が、あとから刻まれたりした作られたのではなく、作成時に像といったいとして、計画されているものだということを証明している。

     『日本書紀』における、太子一人で命じた具体的施策が二つある。
    ① 大楯と靫を作らせ、旗幟(きし)に画を描かせる。(推古十一年十一月条)
    ② 王臣に命じ、褶(ひらみ)を着用させる。(同十三年閏七月条)
     こんな些細な記事が捏造されるとは考えられず、これこそ正真正銘、事実に基づくと見られる。
     この①も②も朝廷の儀礼を整えるため、太子主導の下に行われた施策といっていい。官僚制への指向が出てきたこの時期に、まさにふさわしい動きである。
     逆にこの①、②の動きが、冠位制や憲法の作成を裏付けるものだといえる。

     外交の問題もあわせて考えると、太子の役どころは、中国や朝鮮の書物や制度を調べ、それをもとに倭国に合った制度を立案することにあったと考えられる。

     また法華義疏については、現在実際に残っている巻物の状態を取り上げ、この写本がこれほどまでにウブな姿を失わずにきたのは、やはり聖徳太子の自筆写本という伝承がずっとあったからではないか。こんな正体不明の古写本がずっと残るはずがない。行信が太子の著作に仕立て東院に持ち込んだと考える説について、紙が大切だった当時のこと、百年以上も前の草稿本が、行信の時代まで、四巻セットのまま完全に残るとは、とても考えられない。とっくに切り刻まれて、裏面を再利用されているに違いない、と述べている。

     勝鬘経義疏について、いわゆる敦煌本では、「此の譬えは、前と語も意も倶に同じ」という注釈がある。しかし日本の義疏には「故に文も意も皆同じ」とあり、「語」が「文」になっていたりする。
     敦煌本は、ネイティブだから「語」と書いていて、義疏の作者は「文」として勝鬘経を捉えている。
     また、注釈の内容は酷似している件であるが、「現代では盗作だと非難されそうですが、中国の注釈は、儒教、仏教を問わず、先行の優れた注釈を全面的に踏まえて作られます」とあるように、文章の多くが同じというのは当たり前なのだ。
     法華義疏も梁の法雲の注釈を種本としているが、それをぱくりと非難するのは間違っている。
     また、聖徳太子は大胆にも、法華経そのものの原本の文章に文句をつけている。坐禅について、批判して、原文に対して「そうは思わねえ」と反論している。これは、逸脱も逸脱。学問というよりは一個の日本人の意見表明である。

  • 〇新書で「学校生活」を読む⑯

    東野治之『聖徳太子 ほんとうの姿を求めて』(岩波ジュニア新書、2017年)

    ・分 野:「学校生活」×「歴史を読む」
    ・目 次:
     はじめに――この本を読む人へ
     序 章 ほんとうの聖徳太子を求めて
     第一章 釈迦三尊像の銘文にみる太子
     第二章 太子はどんな政治をしたのか
     第三章 聖徳太子の仏教理解
     第四章 斑鳩宮と法隆寺
     終 章 聖徳太子の変貌
     あとがき

    ・総 評
     本書は、いわゆる「聖徳太子」の実像について、様々な史資料を分析しながら考察した本です。著者は日本古代史を専門とし、奈良大学名誉教授・東京国立博物館客員研究員などを歴任しています。
     少し前に“聖徳太子はいなかった”という言説が流行りましたが、その背景には、太子に関する史資料の大半は後世に作られ、彼の実在を証明する“同時代の正確な史料”がほとんど存在しないという点があります。著者は貴重な史資料に触れることができた経験を基に「史料の何がどこまで信用できるのか」という点を重視して、彼の実像に迫ります。この本を読んで面白いなと思った点を、以下の3点にまとめます。

    【POINT①】法隆寺金堂釈迦三尊像の銘文はいつ彫られたのか?
     著者が「最も信頼できる同時代の史料」として挙げているのが、聖徳太子が亡くなってすぐに作られた仏像(釈迦三尊像)の背面に彫られた銘文です。ここでは、太子は「仏教への造詣が、周囲の注意をひきつけてやまないほど、並はずれていた」と評価されていますが、一方で、この銘文は仏像が作られてからだいぶ後の時代に追加で彫られた文章ではないかという指摘もありました。著者は釈迦三尊像を観察する中で、背面の「金メッキが散布している」状況から、この銘文は仏像が制作された時期に彫られたもの=「同時代の史料」であると判断しています。

    【POINT②】『日本書紀』に書かれていること/書かれていないこと
     聖徳太子の功績を詳しく記した史料『日本書紀』は、朝廷が国家事業として編纂した歴史書ですが、その内容については朝廷に都合が良いように改変されている部分もあるため、どこまで信用できるのかが議論されてきました。著者は『日本書紀』の記述について、捏造する必要もない「些細な記事」や、逆に外交面では「太子の足跡」が見られないことに注目し、それぞれの記述の真偽を判断しながら、太子は「中国や朝鮮の書物や制度を調べ、それをもとに倭国に合った制度を立案すること」を得意とする一方で「権力を背景に、政策を実行する面は、〔蘇我〕馬子の実力に負っていた」と判断しています。

    【POINT③】『法華義疏』(全四巻)は聖徳太子が書いたのか?
     仏教の経典「法華経」の注釈書『法華義疏』(全四巻)は、太子の自筆(自ら書いたもの)と言われている史料です。これが事実なら、一四〇〇年前の原稿が残っていることになり、昔からその信憑性が問われてきました。著者は、この史料を実際に手に取る機会に恵まれ、後世に作られたカバーと比べて「中身の写本が不釣り合いに貧弱」なことに驚きながらも、これが太子の自筆原稿だと判断しています。その上で、太子の仏教理解は「一個人の悟りを求めるのではなく〔…〕全体の救済を目標とする考え方」であることや「在家のための仏教」を重視するなど、同時代から見ても「独特な解釈」を行っていたと指摘しています。

     以上の【POINT】を踏まえ、著者は、聖徳太子という人物を「行動的ではないが頭は冴え、自分のポリシーをもって外来文化を取り入れる、ある意味過激な知識人」という感想を述べています。歴史を研究する場合、ただ史料に書いてあることを読めばいいのではなく、その史料が“どこまで信用できるのか”という分析を行う必要があります。こうした作業を「史料批判」と言うのですが、本書は、その「史料批判」の一端を見せてくれるという点で非常に面白い一冊と言えます。
    (1564字)

  • 緻密で説得力ある内容。ジュニア新書と言いながら、本格的。聖徳太子の実像に迫るには一体、どんな史料があるのか? そうした史料にもとづいてどんなことが言えるのか? 様々な説があるなかで、著者はどのような結論にいたったのか? 実証的研究の成果をわかりやすく示してくれている。

  • 288-T
    閲覧新書

  • 「聖徳太子 ほんとうの姿を求めて」東野治之著、岩波ジュニア新書、2017.04.20
    226p ¥950 C0221 (2021.12.05読了)(2021.11.26借入)

    【目次】
    はじめに―この本を読む人へ
    序章 ほんとうの聖徳太子を求めて
    一 聖徳太子と厩戸皇子
    二 太子をめぐるさまざまな史料
    第一章 釈迦三尊像の銘文にみる太子
    一 銘文のなぞ
    二 銘文を読んでみよう
    三 銘文からわかること
    第二章 太子はどんな政治をしたのか
    一 太子の立場
    二 十七条憲法と冠位十二階
    三 外交における役割
    第三章 聖徳太子の仏教理解
    一 仏教の伝来と広がり
    二 天寿国繡帳を読み解く
    三 太子が注釈した経典
    第四章 斑鳩宮と法隆寺
    一 飛鳥と斑鳩
    二 斑鳩という土地
    三 発掘された斑鳩宮
    四 宮に併設された法隆寺
    終章 聖徳太子の変貌
    一 初期の太子崇拝と法隆寺の再建
    二 女性たちの信仰
    三 近代から現代へ
    あとがき
    聖徳太子年表
    索引

    ☆関連図書(既読)
    「聖徳太子(1)」黒岩重吾著、文春文庫、1990.04.10
    「聖徳太子(2)」黒岩重吾著、文春文庫、1990.04.10
    「聖徳太子(3)」黒岩重吾著、文春文庫、1990.05.10
    「「日出づる処の天子」は謀略か」黒岩重吾著、集英社新書、2000.02.22
    「日出処の天子(1)」山岸涼子著、白泉社、1980.08.25
    「日出処の天子(2)」山岸涼子著、白泉社、1980.12.25
    「日出処の天子(3)」山岸涼子著、白泉社、1981.04.25
    「日出処の天子(4)」山岸涼子著、白泉社、1981.11.25
    「日出処の天子(5)」山岸涼子著、白泉社、1982.04.25
    「日出処の天子(6)」山岸涼子著、白泉社、1982.09.25
    「日出処の天子(7)」山岸涼子著、白泉社、1983.03.25
    「日出処の天子(8)」山岸涼子著、白泉社、1983.08.24
    「日出処の天子(9)」山岸涼子著、白泉社、1984.02.23
    「日出処の天子(10)」山岸涼子著、白泉社、1984.07.24
    「日出処の天子(11)」山岸涼子著、白泉社、1984.12.25
    「聖徳太子(1)」池田理代子著、創隆社、1991.11.08
    「聖徳太子(2)」池田理代子著、創隆社、1992.02.20
    「聖徳太子(3)」池田理代子著、創隆社、1992.06.15
    「聖徳太子(4)」池田理代子著、創隆社、1993.03.31
    「聖徳太子(5)」池田理代子著、創隆社、1993.07.24
    「聖徳太子(6)」池田理代子著、創隆社、1993.10.29
    「聖徳太子(7)」池田理代子著、創隆社、1994.11.10
    「飛鳥の朝廷 日本の歴史 3」井上光貞著、小学館、1974.01.31
    「飛鳥王朝の悲劇」大羽弘道著、光文社、1977.01.31
    「蘇我蝦夷・入鹿」門脇禎二著、吉川弘文館、1977.12.01
    「飛鳥 新版」門脇禎二著、NHKブックス、1977.12.20
    「隠された十字架」梅原猛著、新潮文庫、1981.04.25
    「NHKさかのぼり日本史⑩奈良・飛鳥」仁藤敦史著、NHK出版、2012.06.25
    (「BOOK」データベースより)amazon
    誰もが知っているのに、謎だらけの存在、聖徳太子。偉人か、ただの皇子か、「聖徳太子」か「厩戸王」か…、彼をめぐる議論は絶えません。いったいなぜそんな議論になるのでしょう。問題の根っこを知るには、歴史資料に触れてみるのが一番。仏像、繍帳、お経、遺跡などをめぐり、ほんとうの太子を探す旅に出かけましょう。

  • ☆太子の事蹟を認める立場
    (関連)聖徳太子 吉村 2002 岩波新書 けあしだこ

  • 聖徳太子の実像について、残された史料の性格とそれを踏まえて読み取れること、法隆寺関連の考古学調査から得られた成果を、新書にしては細かく述べてあり、聖徳太子研究の入門書的な雰囲気。

  •  東大国史出身の研究者が「不在」説を唱えるほど、21世紀の現在もとかく新説・異説・珍説の多い聖徳太子だが、本書は現在では最も伝統的・守旧的な立場からの聖徳太子小伝と言えよう。後世の偽作説の強い十七条憲法や、やはり後世の追刻説の強い法隆寺金堂釈迦三尊像光背銘を全面肯定、舶来説のある法華義疏も太子真筆説を採っている。さすがに「摂政」「皇太子」や蘇我馬子との共治説をそのままでは採らないが、馬子のアドバイザー・ブレーンという位置づけで事実上旧説を引き継いでいる。それだけに新鮮さは全くないが、いわゆる教科書的な通説がどのような研究史を経て形成されたか簡便に知る上では有用で、聖徳太子や太子信仰を学習する上での「出発点」としての価値はあろう。

  • 2018/03/02:読了
     人物を伝記風にというのでなく、残った文献から推定できる人となりを書くというスタイル。
     戸惑ったけど、面白かった

  • 専門でない僕には、「ほぼ虚構だ」でも「スーパーヒーローだ」でもない、こういった記述がもっとも真実に近いように思える。
    またソフトな語り口でありながら論争的な書きぶりは、なんだかハラハラして楽しい。

    ただこの手の本を読んでいつも書いている気もするが、「絶対にこうだ」という証拠はなかなかないんだよねえ。
    なんか西澤保彦的に「こういうふうにも考えられる」という学説が乱立している(せざるを得ない)世界のような思いをさらに強くしたなあ。

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