近代天皇像の形成 (岩波現代文庫 学術 186)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (346ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006001865

作品紹介・あらすじ

社会秩序の要としての天皇制を歴史的に把握する時、明治維新をはさむ約一世紀の間に、天皇制をめぐる観念の大部分が作り出されたことは明らかである。その生成と展開の過程から何が明らかになるか。膨大な史料を読み込み、思想史の手法で天皇制の本質と受容基盤を解明する渾身の一冊。新稿「天皇制とジェンダー・バイアス」を付す。

感想・レビュー・書評

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  • 政治思想的内容を期待したのだが、どちらかと言うと宗教史的な内容であった。思想的には宣長→篤胤の展開に尽きるというか、これが近代天皇制を支える基盤となるのだろうが、これがどのように政策的に展開されたのか?そしてどのように受容されたのかという問いに関しては研究が不十分な気がする。最後の「屈辱の記念碑」という文言は著者の天皇制批判の表れと読むべきなのだろうか?

  • 安丸良夫
    本体1,300円+税
    通し番号:学術186
    刊行日:2007/10/16
    ISBN:9784006001865
    A6 並製 カバー 356ページ 在庫僅少

    社会秩序の要としての天皇制を歴史的に把握すると,明治維新をはさむ約1世紀の間に,天皇制をめぐる観念の大部分が作り出されたことは明らかである.その生成と展開の過程から何が明らかになるか.鋭い問題意識から出発し,膨大な史料を読み込み,思想史の手法で分析.天皇制の本質を解明する渾身の書き下ろし.

    本書が刊行された十五年前においては,昭和天皇の病気から死去後に至る過剰な「自粛」という社会現象から日が浅かったという背景の下に,天皇制の歴史的現在をどう認識するかが問われていました.現時点では天皇と皇室問題への社会的関心が当時とは異なる問題に集中していますが,歴史的に日本の天皇制をどう捉えるかという問いは決して過去のものではありません.
     天皇制をいかに規定するかについては,学問分野,学問的立場,思想的立場を超えて長年,実に多様な見解が提出されてきています.大きくは天皇制連続説と断絶説とに区別されますが,連続説の立場に立つのは天皇制擁護派だけでなく,山口昌男の人類学的王権論,宮田登の民俗学的生き神=天皇信仰論,網野義彦,尾藤正英などの歴史学者の仕事が注目されます.
     本書の著者である安丸氏は,断絶説に立つ歴史学者として,「我々がごく通念的に天皇制の内実として思い浮かべることのできるものは,実質的には明治維新を境とする近代化過程において作りだされたものであることを強調して」きました.著者は,天皇制にかかわる制度や観念には古い由来をもつものも少なくないことを認めた上で,それらが「近代天皇制を構成する素材として利用されて新しい意味を与えられたのだ」と考えています.「古い伝統の名において国民的アイデンティを構成し国民国家としての統合を実現することは,近代国家の重要な特質のひとつであり,そうしたいわば偽造された構築物として,近代天皇制を対象化して解析するというのが,私の課題である」と著者は自らのスタンスについて言及しています.
     著者は近代天皇制を構成する基本観念を,(1)万世一系の皇統=天皇現人神と,そこに集約される階統性秩序の絶対性・不変性(2)祭政一致という神政的観念(3)天皇と日本国による世界支配の使命(4)文明開化を先頭にたって推進するカリスマ的政治指導者としての天皇と要約した上で,こうした観念がなぜ形成され求められたのかということを,その時代の人々の意識構造に出来るだけ内在して理解するという試みを行っています.
     一言で言えば,「近代転換期における天皇制をめぐる日本人の精神の動態の解明」を企図した試みが,本書の最も中心的な主題を織りなしているといえます.それゆえ,学問的立場,思想的立場の如何にかかわらず天皇制に正対し,考察しようという方々にとっては本書は今もなお有意義な内容を有していると思われます.膨大な史料を読み込み,思想史の手法で天皇制の本質と受容基盤を解明する渾身の一冊です.
     今回の現代文庫版に際して,新稿として「天皇制とジェンダー・バイアス」が付されています.近年において最も関心を集めてきた皇位継承問題についての著者の論稿ですので,きわめて興味深い内容になっています.
    (本書は1992年5月,岩波書店より刊行されました)
    https://www.iwanami.co.jp/smp/book/b255817.html

  • □要約
    目的:天皇制の権威の観念がなぜ、どのように形成されたのかを究明すること

    手法:近代転換期を18世紀末から19世紀末までの一世紀に設定し、思想史的手法を用いること

    現代の天皇像の始点としての近代天皇制
     安丸の関心は、生身の天皇その人と、権威としての天皇像との間に存在する大きな懸隔である。この権威はどのようにして発生したのか、これが本書のテーマである。
     天皇を巡る見解は大きく二つに分かれる。まず一つ目は天皇制をきわめて古い時代からの持続性においてとらえる見解である。これを連続説と呼ぶ。二つ目は天皇制が歴史の中で大きく断絶しているとする見解である。これを断絶説と呼ぶ。安丸は自身が断絶説の立場であることを明らかにする。大きな断絶は、安丸の見解では明治維新をはさんだ18世紀末から19世紀末までの約一世紀に存在するという。現代の権威としての天皇像はこの時期の近代化の過程で形成されたのである。こうして、近代転換期の天皇制を本書の研究対象とすることが示された。

    近代天皇像の形成
    まず安丸は、近代天皇制にかかわる基本観念として次の四つを挙げる。①万世一系の皇統=天皇現人神と、そこに集約される階統性秩序の絶対性・普遍性、②祭政一致という神政的理念、③天皇と日本国による世界支配の使命、④文明開化を先頭にたって推進するカリスマ的政治指導者としての天皇(P13)。以上四点である。これらの観念いかにして形成され、どのようにして浸透していっただろうか。
    近代天皇制は人工的に創られたものである。安丸は近代天皇像の形成を明治維新に求めている。当時、ペリー来航をきっかけとして幕末の政治的激動が開始されていた。そこで、討幕を正当化する根拠が必要だったのだ。そこで創りだされたのが「天皇や朝廷の現状とは切断されたところに成立する疑似宗教的な天皇像(P146)」であったのである。絶大な権威と威力とをそなえた天皇像とそのもとで実現せらるべき新政について、最初にまとまったイメージを提示したのは真木和泉である。だが、生身の15歳の少年自身を天皇の至高の権威性とすることはできなかった。つまり個人カリスマとして根拠づけることはできなかったのである。そこで行われたのが伝統カリスマとして根拠づけることであった。こうして「万世一系」の観念が天皇の権威性の根拠となっていく。
    ではなぜこの観念が広く浸透することができたのであろうか。一つの答えは民衆が広く共有した「不安と恐怖」の存在である。18世紀末以降、「近代転換期の日本社会が、極めて強大な威力によって外から脅かされており、それがまた内なる秩序の動揺と結びついて、内外の危機が相乗的に亢進しあって、ついには日本社会の秩序が土崩瓦解するのではないかという、強い不安と恐怖(P27)」である。このような状況の中で、人々は「権威ある中心」を求め始めたのである。したがって、安丸は維新政府によって天皇の権威性は創られたとしながらも、一方で、究極的なところでは人々が望んだから創りだされたと述べるのである。

    現代の天皇像に生き続ける権威性
     現代の天皇像では、近代天皇制にみられた現人神天皇観や世界支配の使命などという、国体の特殊な優越性についての狂言妄想的側面は消滅した。敗戦を境にして脱ぎ捨てられたのである。それでも、敗戦直後から現在まで天皇制への支持率は圧倒的であり、国民国家の編成原理としていまだに健在であるといえる。安丸は相撲界を例に挙げて説明するが、我が国においては権威づけや価値づけを追究していくと天皇制にゆきついてしまうという。どれだけ文明化、近代化しようとも、天皇制は国民対国家という枠組みの中でもっとも権威的・タブー的な次元を集約し代表するものとして、今も秩序の要として機能しているのである。
    このような現代の天皇像にも存続する「圧倒的な権威性」は近代の明治維新の時期に形成されたものであることを本書は論じたのであった。

  • [ 内容 ]
    社会秩序の要としての天皇制を歴史的に把握する時、明治維新をはさむ約一世紀の間に、天皇制をめぐる観念の大部分が作り出されたことは明らかである。
    その生成と展開の過程から何が明らかになるか。
    膨大な史料を読み込み、思想史の手法で天皇制の本質と受容基盤を解明する渾身の一冊。
    新稿「天皇制とジェンダー・バイアス」を付す。

    [ 目次 ]
    第1章 課題と方法
    第2章 近世社会と朝廷・天皇
    第3章 民俗と秩序との対抗
    第4章 危機意識の構造
    第5章 政治カリスマとしての天皇
    第6章 権威と文明のシンボル
    第7章 近代天皇像への対抗
    第8章 近代天皇制の受容基盤
    第9章 コメントと展望

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


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著者プロフィール

一橋大学名誉教授・故人

「2019年 『民衆宗教論 宗教的主体化とは何か』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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