- Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
- / ISBN・EAN: 9784022578709
感想・レビュー・書評
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果樹栽培が主産業の東北地方の町が舞台。のどかな風景の裏の猥雑と暴力に満ちた人間模様が描かれる。18禁のどぎついシーン満載だが、ストーリー展開に引き込まれる。シンセミアは「種なし大麻」。
著者の作品は初めて。20年前の作品ですが、驚愕しました。とにかく登場人物が多く、どの人物も一筋縄ではいかない。善人が登場しない物語。上巻を読了しても、主人公が誰なのか、今後のストーリー展開も予測不可能。これだけ物語を広げて、下巻でどのように収束させるのか興味津々です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2010/8/1(~66)2(~186)3(~268)4(~?)終
友人が読んでいたので、気になって読んでみた。
阿部和重氏は「インディヴィジュアルプロジェクション」で初読でそのあとも何冊かお世話になっており、この、なんともいえない深いダークのようで、明るいとも言いがたい世界観に魅了されていました。
今回もかなりねっとりとしたダークがあり、謎があり、上下2冊で半端ないページ数があって「これ、こんなに長いけど大丈夫なのか・・・」と長編読むときにいつも湧く心配が頭をよぎりましたが、上を読んだ時点で私の中でかなりアクションがあり、好きになりました。
久々に読んでいて興奮が止まらない1冊でした。 -
犯罪といってしまえばそれまでなのだが,原罪を抱えたまま放置した末路がさまざまな人物によく現れていると思う。共感を放棄させるどころか,作者自身が覗きを推奨するような構成で意地悪い。
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10年ぶりほどに再読。古びない。傑作。
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作者の故郷でもある山形県神町が舞台。破滅的で何が起こるかわからない。
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山形県の神町を舞台に不可解な事件が連続し、幼なじみのパン屋と警察官が中心に話が進んでいく。
多数の登場人物の性癖、性格、弱さを含め、すべてに共通しているのは、歪みだと思う。主人公格の二人も世間的には軽蔑されるだろう性癖の持ち主である。
自殺、交通事故、失踪した人々をめぐる動きは、住人の欲望や弱さとからみあって斜め上の方向へ向かっていく。
系統的には文学に傾斜しているとは思うのだけれど、暴力や濡れ場や卑語が読者を選ぶかもしれない。僕はたいへんおもしろく読んだ。警察官が不良少年を叩きのめすところが爽快。
タイトル通り、麻薬が多くかかわっているし、性癖に対する中毒も意味しているかもしれない。 -
阿部和重の他の作品はいまいちあわなかったけど、この作品はめちゃくちゃ面白い。
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じつに10年間にわたる積読を経てようやく読了。阿部和重の代表作と位置づけられる本書だが、このあとに発表された『グランド・フィナーレ』では芥川賞受賞を念頭に置いたためなのか、諧謔趣味は健在だが苛烈さが弱まったこともあり、「前期・阿部和重」の頂点と見做されるべきなのかもしれない。「俺はビートニクじゃない!」と言い放ったジャック・ケルアック同様、阿部和重も「J文学」やら「シブヤ系」といったレッテルを忌避しているのだが、「異端」を認識下に置き支配するための詭弁にすぎないわけで、むしろ禁忌として扱われることで魅力を放つということもある。つまり『シンセミア』をはじめとした「前期・阿部和重」は日常のマージナルな部分を際立たせることで、ぼんやりとした「了見」に揺さぶりをかけるのだ。本作のそれに加えて「時間性」を導入しているところが出色だ。「時代」と「「歴史」とそれに付随する「継続性」は、「言い伝え」「たたり」「風習」に力を与える源泉となり、僕らに不条理を強いるわけだが、どうやらそれは無視できるもんでもないけど、渋々受け入れるもんでもない。「受苦者的振る舞い」の否定というのもメッセージとしてあるような気もする。「人間賛歌」というほど単純でもないが、「神町」に棲息するひとたちは憎めない。そう、そろそろ本書の紹介に入らねば・・・。
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久しぶりに興奮を覚える作品。悪意に満ちた内容と格調の高い文章の組み合わせが素晴らしいほどの迫力を生み出している。また、作品を貫く悪意の正体のようなものが明かされるラストもなかなか圧巻だった。こういう内容は大好きだ。他の作品も読んでみたい。
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なかなか見つからなかった朝日文庫版で全四巻、1000ページを超す分量、主な登場人物は50人を下らない長編小説の割りに、一切の破綻がなく、すべての伏線が喜劇的とも思われる一連の事件が起きる2000年8月28日に収斂していく。無理なく。
それより驚いたことは、作者が2000年の東北地方の街(と東京)を舞台にして描き、2003年時点に刊行された小説(法螺話)が、その後似たような事件となって現実に起こっていることだ。小説上では2000年7月23日に渋谷文化村通りで起こったことになっているトラック暴走事件は、驚いたことに2008年6月8日に加藤智大が引き起こした「秋葉原通り魔事件」として現実化していて記憶に新しい。盗撮事件やロリコン警察官の淫行については枚挙に暇がないが、夫婦が薬物を使用する下りは今夏「酒井法子事件」となって世間を騒がせている。ラストシーンで青年団の生き残りが整形手術を受け別人のようになって現れて驚かされたが、これは「英会話学校講師殺人事件」の市橋達也を想起させるではないか。まさに事実は小説より奇なり。