[増補版]戦前回帰 「大日本病」の再発 (朝日文庫)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022619327

作品紹介・あらすじ

【文学/日本文学評論随筆その他】「国家神道」「八紘一宇」……かつて日本を覆いつくし、敗戦とともに消えた思想や概念が、姿を変えて復活しようとしている。日本はなぜ歴史を繰り返すのか? 戦前・戦中の日本を「戦史」の面から検証し、「大日本病」の再発に警鐘を鳴らす。

感想・レビュー・書評

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  • 2018/7/7読了。
    この本は、「戦争は悪! 九条バンザイ!」と頭がお花畑のようなことを言ってる人ではなく、「日本も戦争のできる普通の国になるべきだ」「中国や朝鮮に対抗できる軍事力を持つべきだ」そのために「憲法を改正するべきだ」と考えている人にとって大切なことが書いてあるので、そういう人にこそぜひ読んでいただきたいと思った。
    今の政権やその支持団体が「日本を取り戻す」「美しい日本」などのスローガンのもとで回帰を目指している昔ながらの神道風味な体制は「戦争をするには致命的な欠陥のある体制」であったことが、戦史の研究家である著者によって、非常に読みやすく分かりやすく論証・例証されている。その体制で戦争をしても勝てない。勝てないどころか国が滅びるまでとことん負けるのだ。
    確かにその体制で70年くらい前に実際に戦争をやってみたら、最後には核兵器を二発も使われて、東日本大震災の150回分に相当する数の死者を出すような、こてんぱんな負け方をしたことを僕らは知っている。そんな体制へ今さら回帰しても意味がないと考えるのが普通だろうと僕などは思うのだが、普通が存在しなくなった今の世の中では、そのことを史実に基づいて丁寧に説明してくれる本書のような資料が必要だ。
    これは歴史や政治の難しい話でも何でもない。スポーツやゲームやビジネスや恋愛や就活など、僕らが人生で体験する出来事と同じように考えていい話だ。大負けしたら反省して違う作戦を考えるものではないですか、なんで一度大失敗したのと同じやり方を懲りずにまた採用するのですかという、とてもシンプルな話のはずなのだ。
    僕自身はお花畑な考え方派なのだが、その僕が仮に百歩譲って「日本がもう一度戦争のできる国になるにはどうしたらいいか」「もし戦争になっても負けないためにはどうしたらいいか」という観点に立って考えることにしても、今の政権やその支持団体のビジョンに従っていては、やはり危ないというか頼りないというか信用できないと思うのだ。
    サッカーに例えると、この監督の根性論的な指導や采配のもとでは国際試合には勝てない(実際、70年前に大負けしている。チームが解散してオーナー会社が倒産するくらいの大惨事だった)。フットボールに例えると、反則の責任を選手になすり付けるような記者会見を開かされる羽目になりかねない(実際、70年前にそういう羽目になっている。動画もYouTubeに上がっている)。そんな監督に「もう一度同じやり方でご指導お願いします」とチームを任せる馬鹿がどこにいるだろうか。
    これはもう、アベ政治を許さないとか何とかいうスケールの小さな話ではなく、俺は右だとかあいつは左だとかお花畑だとか、韓国がどうだとか中国がこうだとか言ってる場合でもなく、戦争をやっても勝てない方法論をゴリ押しする人たちに戦争前提の国づくりをさせていていいのか、戦史研究のプロの目からは素人にしか見えない人たちに戦争指導を任せることになってもいいのか、という純粋に人事採用の話として考えた方がいい時代になってきているのではないか。
    本書には、そういう人事採用の話をするための基本的な土台として、憲法改正に賛成する人も反対する人も、戦争を肯定する人も否定する人も、昭和生まれも平成生まれも、右も左も、日本を愛する人なら必ず知っておかなければならない過去が書いてある。
    これは僕らがいま日本を預けようとしている人たちの職務経歴書、履歴書のようなものだ。そして、過去に彼らを採用してしまった担当者(臣民)の失敗分析、傾向と対策も書いてある。現代の採用担当者(国民有権者)にとっては、その意味でも必読の書だと思う。

  • 戦後民主主義を否定し、戦前戦中の国家体制を肯定する現内閣は軍国主義で国家神道の価値観に支配された大日本帝国へ日本を戻そうとしているのか。明治時代に導入された国家神道は、神道と異なり、天皇を神の子孫と考える建国神話に基づく政治システム。あらゆる価値判断の基準となり、人権、人命よりも国体への献身、犠牲が奨励された。敗因は軍国主義ではなく、国家神道の精神思想が影響していた事を認識する必要がある。今、その国家神道がこの時代に蘇ろうとしている。

  • とても勉強になる本。戦前、戦中の国家体制を讃え、その時代に戻そうとする日本会議の危うさが良くわかる本である。集団に流され易い日本人が、如何に自立し、個人として考え思考していくのが大切なのかがわかる。

  • 内田樹さんがよくリツイートしてて、そのおかげで名前を知ることになった人の本。そのツイート内容が、いちいち感心させられることばかりで、機会があればその著作も是非、とは常々思っていた。本作が出ることも、それこそツイッターで知ったんだけど、内容も興味深そうだったので早速入手。いやいや、目からウロコの事実がてんこ盛りで、実に有意義な読書だった。嘘つきってだけでも十分耐え難く、かつ違憲連発までしまくる現首相を、どんな見解を持って支持するのかが本当に理解出来ないんだけど、ここに書かれた国家神道とか戦前回帰の信奉者がそれをしとるんですね、きっと。読めば読むほど、知れば知るほど、暗澹たる気持ちにさせられる今の日本って一体・・・ですわ。逆に、海外メディアの鋭さには驚かされっぱなしでした。とにかくまず、将来間違いなく酷評されることになる現行内閣の暴走を早く終わらせないと・・・

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著者プロフィール

山崎雅弘(やまざき・まさひろ) 1967年生まれ。戦史・紛争史研究家。

「2020年 『ポストコロナ期を生きるきみたちへ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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