東京タクシードライバー

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784023312609

作品紹介・あらすじ

【文学/日本文学】タクシードライバーの人生を描くノンフィクション。いじめられっ子がみつけた居場所。ホームレスから生きる希望を見つけた男性。連れ子のために奮闘するドライバー……。 現代日本ノンフィクション。事実は小説よりせつなく、少しだけあたたかい。

感想・レビュー・書評

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  • 妻の不倫で親権までとられたのに妻の借金を抱えたまま、うるさい親から逃げてホームレスになった男。中途入社したディスカウントストアの上場を経営企画室課長と言う立場で切り盛りし、年長の大卒社員をこき使わざるを得ず燃え尽きた男。会社勤めに向かない専業主夫のかわりに勤めに出た女。お嬢様育ちからALSの権威になった医者の夫の代わりにタクシー会社を継いだ女社長。色々な経歴をもつ10人ちょっとの物語。

    タクシードライバーには2通りのやり方がある。駅で待つ「着け待ち」は基本的に駅間以上の距離を走ることはなく、いかに回転を上げるか。つまりはどれだけ行き先や道を近いしているかが勝負だ。万収という1万円を超える売り上げはめったにないが程々に堅く、待ってる間に知り合いのドライバーと話をする楽しみもある。一方の流しは「なか」つまり都心3区を目指す。タクシーチケットを持った長距離客をうまくつかまえれば実入りも大きい。そしてそこには微妙なテクニックや勘にも左右される。

    パリッとした服装のいかにもお金持ち然とした客が、必ずしもロングとは限らない。金持ち客は都心の高級マンションに住んでたりして、以外と近距離だったりするからだ。では、どういう客が本物の上客かといえば、ヨレヨレのスーツを着て、いかにも疲労困憊した雰囲気を漂わせているサラリーマンだと言う。確かに社内でも飲み過ぎて終点まで行った話やちょっと遅くなるともう開き直ってタクればいいと言う話はよく聞く。一回飲みに行く回数を減らせば一緒だとか・・・

    流しの場合には近場への現金客を合法的にスルーするテクニックが存在する。タクシーは基本乗車拒否は出来ないことになっているので先頭を走った場合にはどんな客を乗せるかは止まってみないとわからない。しかし、2番手であれば少し違う。タクシーチケットを持った客は目当てのタクシー会社を決めているので、先頭のタクシーをスルーして自社を待ってる客はロングの可能性が高い。他にも高速に乗るつもりの客なら同じ場所でも待つ場所は変わってくる。ロジックと直感の組み合わせが万収の確率を高めるのだ。

    優先配車にも使い道がある。優先配車は無先客を優先的に回してもらうしくみで、無線の場合普通はオペレーターがマイクのスイッチを話した瞬間に早い者勝ちで了解ボタンを押せば取れる。(今ではGPSがあるのでこの仕組みは無くなってきている)それでも例えば毎週月曜朝に自宅から工場に出社する中小企業の社長の行動パターンを知っていれば呼ばれた瞬間に駆けつけることは出来る。短距離客を無線で乗せると優先配車が取れるので、初乗りで終わるとわかっている客の時は優先ボタンがつくまで待ち、ロング客が乗る銀座の夜間にその権利を使う「銀座・三原橋優先待機入ります」と言った具合だ。

    夫の代わりにタクシー会社を継いだ女社長は禁煙タクシーを導入した。イメージとは違い導入の狙いは会社のイメージアップは全く関係なく従業員の健康が目的だった。禁煙タクシーは素人のお思いつきから始まったのだった。

    一番面白かったのがPCメーカーの新人コンテストで営業成績2位になり美人の嫁と郊外の一戸建てを建てながら納入先の官庁とはそりがあわずあっという間に借金生活に落ち妻から捨てられたた男の話。この男が40代後半のころ不倫女性に相談された雪の日の話だ。
    この男はその瞬間に仕事を放棄し缶コーヒーを買ってきて話を聞きだした。
    「最後に捨てられるのはあなたの方に決まってます」
    「男はみんなそう言うっていうけれど、それって本当なんでしょうか」
    「本当です。間違いない。そんなふしだらな関係、もう明日でやめにした方がいい」
    「でも・・・」
    「どうしてもやめられないというのなら、どうしてもやめられないなら・・・このばで僕とつき合うことにしなさい」
    「えっ、いまなんておっしゃったんですか」
    「僕でよければ、絶対にあなたの面倒を見てあげるから、だから・・・いまここで僕とつき合うと言いなさい。いや、僕とつき合え」
    そして1週間後「私でよかったら、おつき合いしていただけますか」
    この雪の日から7年、そしてこのドライバーはいま、彼女との関係をどうするべきか悩んでいる。

  • 私にはノンフィクションはやっぱり向いてない。
    人の人生を面白がれない。
    それぞれがそれぞれにいろんな事情を抱え、頑張ってるのは、当たり前。
    みーんな同じ。
    だから?
    だから何なんだ。

  •  決して一つひとつの言葉が強いタイプの作者ではありません。作業マニュアルのようにわかりやすい言葉で、話を聞いたタクシードライバーの生きようを丁寧に伝えてくれます。彼らがどのように生きてきて、そして今何を思っているのかをしっかりと教えてくれます。
     タクシードライバーの中でも特徴的な方ばかりを選んだのか、それとも一般的にタクシードライバーがこんなふうなのかはわかりませんが、高い波があって深い谷があった彼らの思いを感じることができました。

  • 10年後また読み返したい。

  • 好きでタクシードライバーになる人は少数なのだろう。本書の中では色々な職場を転々としつつ、最後にタクシードライバーになった方々の人生、経緯が綴られる。
    サラリーマンとしては人付き合いが煩わしいが、タクシードライバーは働いている時は束縛されず、気ままにやれるのが良いと言うのが伺える。

    時代をよんだり、少し違った世界が垣間見れる。

  • 現代社会においては、なぜか、タクシーは、求職者に開かれた業界で、組織社会につかれた人にはフィットする、という筋で書かれている。
    最初に取り上げられた人が、無料低額宿泊所と思われるところに入っていて、貧困ビジネスの一側面をうかがわせる。

  • 2018年2月6日読了

  • 病院暇つぶし図書館本。

  • 街ですれ違う名も知らぬ人々は、どんな人生を送っているんだろう。人の暮らしをのぞき見たい性癖が自分にはあって、それはおそらく他人の実在感の欠如の裏返しなのだが、そんな自分にとって、名もなき人の濃密なる人生を描いたこの本はドンピシャだった。
    タクシードライバーをテーマにしたのが良い。底辺にこぼれ落ちた人々、流浪の人という印象があるから。やりがいのあるはずのない仕事で、それを受け入れざるを得ない人生、環境、あるいは性格。そこにこそ、語るべき個性がある。
    成功者の自伝には出てこない、澱、よどみ、吹き溜まり。それが大多数の人生の真相なのだ。
    本書の最後の章が、作者自身の半生を振り返った「長いあとがき」であるのも、そういうことだ。彼自身も、華々しく活躍もできず、かといって隠遁もできず、様々な苦難に耐えながらも都会を行き来する、タクシードライバーの一人なのである。

    文章も格別旨いわけではないが、要所は抑えている。「人生をてづくり」という言葉が良かった。

  • 数奇な運命を辿るタクシードライバー達のルポルタージュ。それぞれに手作りの人生のドラマがある。運命に翻弄され投げ出されたその先にあったのがタクシードライバー。当初は誰もが何の変哲もない普通の人。それが、あれよあれよという間に変わってしまう。人生は厳しい、だけど楽しい。だからこそ楽しい。投げ出され放り投げられながらも生き抜いていく人たちの姿が清しい。長いあとがきにある著者自身の波乱万丈が綴られている。本小説にも大きな影響を及ぼしているものと思われる。奈落の底を見た著者だからこそ注げる温かみが物語の光となっている。

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著者プロフィール

ノンフィクション作家

「2019年 『パラアスリート』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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