ピース・ヴィレッジ

著者 :
  • 偕成社
3.30
  • (5)
  • (9)
  • (20)
  • (5)
  • (1)
本棚登録 : 96
感想 : 26
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (194ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784036430901

作品紹介・あらすじ

トニーはもうこの基地にいないのかもしれないな、と思う。どこか遠くの戦場へ行ってしまったのかもしれない。トニーのいなくなったあとに、またあたらしくアメリカ兵が送りこまれてきたかもしれない。その人たちを待っている父さんやおばあちゃんは、きっと今夜も店をあけているにちがいない。それから森野さんも、ピース・ヴィレッジでいつものように、モジドやほかの人たちと話をしているんだろうな。この大きな空の下で、わたしたちの町はなんてちっぽけなんだろうと思う。小学校高学年から。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • そうか。作中には明記されていないけど岩国空軍基地。はじめ、横須賀かな沖縄かなと思いながら読んでいて、途中でどちらでもないことがわかったので、どこだろうと思ってしまった。それくらい「岩国」ってあまり語られないのかも。

    ベトナム戦争のころは商店街にも活気があった基地の町。今ではすっかりさびれて、当時を知る大人たちは「あのころはよかったね」などと言いあっている。それが日常になっている場所で生まれ育つ楓。そんななか仲よしの一歳年上の少女紀理ちゃんとのあいだにちょっとした溝がうまれる。紀理ちゃんのお父さんは、昔からずっとひとりで反戦運動を続けてきた人で、基地のそばでびらをまいたりする活動を続けてきた。そのお父さんが病気で入院したことで、紀理ちゃんは、はじめてお父さんのしてきたことをよく知って、その活動を引きつごうと考えている。

    暗黙のうちに基地に――ひいては戦争に――依存している町。楓のお父さんもそこでスナックを開いている。今までただただ紀理ちゃんが大好きであとをくっついてまわっていた楓は、自分のなかに確かなものが何もないことに気づいて、英会話教室に通うことを決める。
    とても静かにささやかに自立が描かれた物語なのかな。

  • 児童文学にも純文学とエンタメがある(もちろんどちらの要素もあるものもある)が、これは純文学。
    子どもも読める平易な言葉しか使われていないし、主人公は小学生だし、語り手もその小学生だし、それらの要素から見れば児童文学なのかもしれないが、ささっと読めて、書いてあることがすぐにまとめられるようなものではないし、作者が言いたかったことは何でしょうと訊かれて、パッと即答できるものでもない。
    思春期の入り口に立つ少女が、少しずつ世界が見えてくるが、そこに納得したり反発したり共感したりできるのはまだ先。今まで当たり前のこととして特に疑問を抱かずにいたことを、違う視点で見るようになって様々なことに気付き始めるその短い期間を描いている。青春ものなら反発から始まるが、主人公はまだ反発するほどの疑問は抱いていない。そのあやうく揺れ動く心を、これだけやさしい言葉で描けるというのが、岩瀬成子の才能だと思う。
    児童文学なのか?とさえ思う。これを読んで、自分のことのように思える少年少女はごくわずかで(それには知性と感性が必要)、普通の小中学生が読んでも、特に大きなストーリーがあるわけではないし、よくわからないと思うんじゃないかな。今の小学生五分後ばっかり読んでて、あらすじみたいな文章とオチのあるストーリーに慣れているから。これは見た目の穏やかさとは裏腹に、子どもにとってはかなり異質な本だと思う。
    米軍基地のある町で、米兵のためのバーなどもあり、日常的に米兵との交流もある。反戦反核運動反基地運動を行う人もいる。そんな大人たちを冷静に見つめようとする高校生、父の反戦運動に関わり始める中学生…。誰に肩入れするわけでもなく、それぞれの生活や思いがあるんだというところでおさえられるのは、主人公が小学六年生だから。
    そこらへんも上手いと思う。わざとそういう設定にしたわけではなさそうな自然なところも好感が持てる。

  • 思春期?のころというのはこんな感じかもしれない。自分と他人の言動や気持ちに注意が向きすぎて、それをあらわす言葉をさがしているような感じ。
    今の自分にはあまり共感はできなかったが、その微妙な心の動きがうまくあらわされてるように思った。

  • 最初は面白かったけど、期待させた分中盤以降からはちょっとダレ気味。いいお話ではあります。

  • 児童書のコーナーにあったけど、これ凄い深い作品。米軍基地のある町に住み、その恩恵を受けたり、逆に米軍基地があることで生じる問題などなどが少女・楓の目を通して書かれる。一種の成長物語でもあるかな。淡々とし過ぎてて気がつくと読み終わってた。2012/356

  • 在日米軍基地が登場するお話。
    軽い気持ちであれこれ語れません。
    児童書にしては難しすぎるのではないでしょうか。
    今日も戦争はなくなっていません。

  • http://ja.wikipedia.org/wiki/岩国飛行場

    「父さんの配っている紙にはね、「あなたもわたしも同じ立場にいる」と書かれているの。「わたしたちは力をもたない市民だ」と。「だから、政府にかんたんに利用されてはいけない。政府の力で戦場に送りこまれて、人を殺してはいけない。また殺されてもいけない。わたしたちは一人の市民として、起きていることを知ろうとしなければいけない。自由に自分の考えをあらわさなくてはいけない。人間の誇りをうしなってはいけない」とそんなことが書いてあったんだ」

    楓(小5)は、友達の紀理(中1)との間に、距離を感じ始めていた。
    紀理ちゃんが、中学生になったから?それとも…。

  • 20130118

  • 文部科学省の推薦(課題かも?)図書になっていました。全体的に静かに物事が進んでいくお話。米軍基地のある街で、環境から戦争をイメージしてしまい、ただ怖がっていた女の子だった楓が、周りの大人や子ども達との関わりの中で、「自分」ということを考え、出来ることを見つけていこうとするまで。

  • 楓は米軍基地のある街に住んでいます。いつも仲良くしていた紀理ちゃんに基地で行われるフレンドシップデーに一緒行こうと誘うと、「私と楓ちゃんは違うからもう遊ばない」と言われてしまいます。何が違うのか、よくわからないでいます。
    最近隣に引っ越しした来た、花絵おばさんは料理研究家で、楓は遊びに行っては、料理を一緒にします。
    いつもカメラを持ち歩き、全てを写真に撮っている高校生の悠ちゃん。

    基地がある街では、基地があるので商売がなりたっているお店もあれば、基地があることを反対する人もいるのです。そういった人たちの思いを、紀理ちゃん、悠ちゃんと一緒にいながら、楓は感じていきます。

  • 私も幼少期から漠然とした戦争への恐怖があります。
    いつか気が付かないうちに戦争が開始されてしまうのではと不安になります。
    戦争によって茶色く塗りつぶされた世界を飛んでいる夢をよく見ます。

    少女時代、世界が見えてきてしまった時の心情が鮮明に思い出されました。

  • 基地のある町にすむ少女の物語。
    主人公の女の子の心の動きが丁寧に綴られているが、
    特にドラマティックな何かがあるわけではなく、淡々
    としていてやや盛り上がりに欠けるかも。

    児童書だけど、小学生にはちょっと難しいかな。

  • 読みやすかった。
    この本は児童書なんやと思うけど、
    小学生や中学生はこの本から
    何を感じとれるんやろうか?

    物凄く難しい問題を提起してるようにも感じるし、
    そうじゃない気もする。

    私的には、ふぅーんって終わり方やったなぁ。

  • 基地のある町に住む楓という少女が、大人になることや
    社会のことに目を向け始める時期の揺れる気持ちが
    描かれている。テーマとしてはあまり他に類を見ないし、
    なんとなく伝えたかったことは分かるものの、
    いまいち胸に訴えてくるものがなかった。というか、
    ちょっと弱い感じがした。
    でも、またあらためて再読してみたいとも思う。
    再読したら、また違った何かが感じられるかもしれない。

  • 良い! 主人公の感受性が心地よい。
    良いけど、私、小学5年生のとき、こんなこと考えてたかな? すごく大人びた子だな〜とも思った。
    『tears in heaven』久しぶりに聴いちゃった(笑)。

  • きょう読み始めてきょう読了。岩瀬さんは四冊目、かしら。
    いままで読んだことのあるものは、個人的にはどれもうーん、というかんじだったのだけど、これはけっこうよかった、かも。少なくとも、「朝はだんだん見えてくる」のときよりも、「基地」が話題となっていることに違和感がなかった。物語がどこへむかうのか、は、あまりはっきりとは示されない。でもだからこそ、読みすすめていくうちに、読者それぞれの身に染むものが何かしらあるのじゃないかと思う。親切な書き方ではないかもしれない、けれど、こういう書き方わたしはけっこう好きだな。
    岩瀬さんの最近の作品を、もう少し読んでみたいなと思った。

  • 居心地がいいところに
    とどまっていられたら、それはいいのだけど、
    世の中も、人も、自分も、すこしずつ動いていて。

    切なくもあるけれど、
    だから、みんな、成長してる。

    社会の中に、人の中に、いるって
    とても素敵なことだなあ。

  • 米軍基地の町に暮らす楓は、低空飛行の戦闘機や轟音を
    日常の生活の中で体験しているせいか、戦争の夢をよく見てうなされる。

    「ピース・ヴィレッジ」という教会のようなところで、
    楓は一つ年上の紀理と、卓球をしたり漫画を読んだりしてよく遊んだ。
    でも紀理が中学生になると、あまり遊ばなくなってしまい、
    楓は少し淋しかった。

    一人で行ったヴィレッジで、楓は幼なじみの悠に何年かぶりに会った。
    悠は高校の写真部に所属し、この界隈の写真をずっと撮っているらしい。
    その日、楓は写真を撮るという悠について行き、
    何ともない場所で写真を撮る悠を不思議に思った。

    基地があるという特別な町で成長する楓の日常。
    少しずつ、大人のことが分かりはじめてきた。

  • 心に残る言葉がたくさんちりばめられたお話だった。
    舞台は米軍基地のある地方都市。
    基地の町ならではの雰囲気がジャズの曲にのって漂ってきそうだ。
    父が藪通りでスナックを営む主人公の12歳の楓、父親と二人暮らしの中1の幼馴染み紀理ちゃん、高校で写真部に入っている男の子悠、どの子もバックグラウンドに基地がある。
    楓たちが出入りするピース・ヴィレッジは基地のアメリカ人や町民や藪通りのバー・スナックの従業員などいろんな人が来る。相談に、英会話を習いに、コーヒーを飲みに、卓球をしに、ただおしゃべりに、といろいろだ。
    ヴィレッジにやって来る外国人、藪通りの写真を撮り続ける悠ちゃん、歌手を諦めて今は料理研究家の楓のおばさん、アメリカ人に反戦チラシを配る紀理ちゃんの父親など、いろんな人とかかわりながら、楓は少しずつ大人になっていく。
    家業が基地にあやかっている楓と紀理ちゃんの立場は微妙だけれど、二人が見ている先は同じ方向だ。
    紀理ちゃんとの大切な関係を楓は大事に胸に抱きしめる。

    小学校高学年から。

  • はじめは静かな子供の日々が続く話かと思いきや、最初の主人公が友達に放たれた一言から、想像の可能性が徐々に広がり、米軍の登場、幼馴染の意味のある格言に揺さぶられる主人公、そして言葉の意味の真実に直接体験して触れ、最後に選びとった未来は、とても愛おしい未来でした。
    主人公楓のピュアな発送は、清清しく、物語を清らかなものに仕上げていました。子供のために見せられた大人の世界。今この国が抱える問題の前で、何気なく日々を送ることに訪れた変調。友達との距離。大切なことばかりつめられたお話です。

全26件中 1 - 20件を表示

著者プロフィール

1950年、山口県生まれ。
『朝はだんだん見えてくる』で日本児童文学者協会新人賞、『「うそじゃないよ」と谷川くんはいった』で小学館文学賞と産経児童出版文化賞、『ステゴザウルス』と『迷い鳥とぶ』の2作で路傍の石文学賞、『そのぬくもりはきえない』で日本児童文学者協会賞、『あたらしい子がきて』で野間児童文芸賞、『きみは知らないほうがいい』で産経児童出版文化賞大賞、『もうひとつの曲がり角』で坪田譲治文学賞を受賞。そのほかの作品に、『まつりちゃん』『ピース・ヴィレッジ』『地図を広げて』『わたしのあのこあのこのわたし』『ひみつの犬』などがある。

「2023年 『真昼のユウレイたち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

岩瀬成子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
朝井 リョウ
中田 永一
朝井 リョウ
岩瀬 成子
魚住 直子
柏葉 幸子
村上 春樹
有川 浩
市川 朔久子
R・J・パラシオ
朝井 リョウ
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×