信長の原理

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (592ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041028384

作品紹介・あらすじ

どんなに軍団を鍛え上げても、必ず落ちこぼれる者が出てきてしまう――信長の疑問と苦悩を解く鍵は、蟻の観察にあった。原理で「本能寺の変」の謎に終止符を打つ、ベストセラー『光秀の定理』に続く革命的歴史小説!

感想・レビュー・書評

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  • 信長は、蟻を観察し、人を観察して、いわゆるパレートの原理を導き出す。活動する集団の2割は必死に働き、6割はその2割に引っ張られて働く、残りの2割はさぼっている、という社会学者が提唱した原理である。実際に信長が発見したかどうかは、どうでもいいのだ。これを、小説を貫くアイデアにしたことが、この小説の面白さに繋がっている。はたして、信長の周りの2割の者たちが、劣化するか、脱落するかしていく。明智光秀の裏切りも、その2割というわけだ。しかし、この小説の面白さは、原理はさておき、信長、佐久間大学、木下藤吉郎、柴田勝家、丹羽秀長、松永弾正、明智光秀たちの心の中に随時、作者が入り込んで、執拗にその考えることを追っていくことにある。それぞれの人物は、感情に揺れ動かされながらも、とにかく理詰めに考え詰めていく。これが、実に面白い。歴史上の人物が、本当にそう考えたかどうかは、どうでもよくなってくる。これは、作者の筆力というべきであろう。それにしても、最後は、信長よりも光秀に、感情移入してしまう。光秀の心の動きは、実際もそうだったのかなあと、ふと思う。

  • こんなに孤独に苛まれ苦悩する信長は初めてかもしれない。
    幼い頃から鬱屈した憤懣が常に燻り、鬱々とした気持ちを抱える。
    実母から虐げられ家臣からも疎まれる始末。
    周りの大人の言う世の通年は、言葉では理解できても感覚として馴染めない。
    身の置き場のないまま、信長は一人、心の中で自問自答する。
    世間の物差しというものは本当に正しいのであろうか、と。

    何事も理屈で考え、納得する理がなければ前には進めない信長。
    天才肌で直感で何事もやり遂げたイメージのあった信長だったけれど、今回の信長は、その内面で随分葛藤していたようで少し意外だった。
    幼い頃に発見した蟻の法則を家臣達になぞり、常に「2割」という数字にこだわり続ける。
    対して、同じく理屈で物事を考える明智光秀。
    「あの法則がこのまま通用するのなら、…このおれを裏切る者がいずれ現れるはずだ。しかしそれは、いったい誰だ」
    似た者同志で最も信頼を寄せていた光秀の手にかかった信長。
    けれど信長の原理からすれば、本当の敵は信長自身だったのかもしれない。

    今日6月2日は信長公忌。
    この日に読み終えて嬉しい。

  • 『光秀の定理』に続くシリーズとも言える『信長の原理』。
    少年時代に、蟻の動きからパレートの法則を見出した信長は、その法則に基づき、常備軍を鍛えあげて、天下取りを目指す。
    世評、非情の権化の如く見做される信長だが、一方で臣下に対する情愛溢れる一面や、さらに、信玄や謙信と比べて己の才能のないことや気性の悪さを嘆く信長を、著者は描き出す。
    幼少期の体験(蟻の動きから会得した)が彼の行動原理となっているが、しかしその法則に囚われるあまり、信長はやがてその身を亡ぼす。
    そんな信長の末路を松永弾正が評する。
    「信長よ、お前も所詮人ではないか。虫けらと同じだ。が、その虫けらがこの宇内の原理を根底から変えようとするなど、その原則を覆そうとする人事を常に試みるなど何を思い上がっている。いったい何様のつもりだ」と。
    第一章から第三章までは、信長が主役で語られるが、第四章以下は、彼の部下たちの視点で交互に綴られ、信長の行動を立体的に描き出している。
    すなわち、木下藤吉郎(秀吉)、丹羽長秀、佐久間信盛、柴田勝家、松永弾正。そして、より多く割かれるのが、やはり明智光秀の視点。
    信長が、光秀を身近に呼び寄せ、家康の謀殺を相談する場面がある。これは史実だろうか。歴史にifは禁句だが、それが遂行されていたら、その後の日本はどうなっていただろう。
    そして、本能寺の変。
    光秀のその動機について、著者は信長の度重なる仕打ちに重ねて、次の言葉で個人としての誇りがずたずたに切り裂かれたことによると、著者は述べる。
    「ぬしの今後も内蔵助の首も、すべてこのわしの匙加減ひとつであるぞ。その一事を忘れるなっ」
    『光秀の定理』と合わせて読むと、より深く味わえるのではないか。
    同時期に読んだ司馬遼太郎の『手掘り日本史』では、本能寺の変を、光秀ノイローゼ説としている。

  • 垣根さんの時代物は初めて読んだが、予想以上に面白かった。
    幼少時に目にした蟻の動き。そこから導かれた二・六・二(または一・三・一)の法則。
    どんな法則かはネタバレになってしまうので書かないが、その蟻の法則が人にも当てはまることを長じるに連れて目にしていく信長の驚愕とその法則をコントロールしようと抗う姿を、これまで散々描かれてきた信長像に当てはめるとこんなに面白い物語になるのかと感心した。

    なぜ彼は家臣たちを駒のように使い駒のように捨てたのか、一方で松永弾正のような男にはなぜ何度も慈悲をかけたのか、今川義元との戦いでなぜ自信を持って闘えたのか…数々の信長にまつわるエピソードが垣根流の解釈で興味深く読める。

    結局のところ二・六・二の法則に縛られその法則までも自分の良いように操ろうとした信長はその考え故に自らの首を締めることになってしまった。人は神仏を超えた自然の『原理』には逆らえないということなのか。

    ではなぜ秀吉は天下を統一できたのか、更に家康はなぜ二百五十年もの泰平の世の礎を築くことができたのか、その辺りもぜひ書いてほしい。
    この作品が面白かったので、遡って「光秀の定理」も読んでみたいと思う。

    • moboyokohamaさん
      「室町無頼」の垣根さんですね。
      「信長の原理」小説らしくないタイトルと思っていましたが読みたくなりました。
      「室町無頼」の垣根さんですね。
      「信長の原理」小説らしくないタイトルと思っていましたが読みたくなりました。
      2019/06/09
    • fuku ※たまにレビューします さん
      コメントありがとうございます。
      垣根さんの時代物は初めてでしたが読みやすくテーマも興味深かったです。
      コメントありがとうございます。
      垣根さんの時代物は初めてでしたが読みやすくテーマも興味深かったです。
      2019/06/10
  • 子供時代の織田信長から本能寺の変まで、現代の理論「働き蟻の法則」をテーマにして描いた読み応えのある作品。
    部将を取り立ててはふるい落とし、走り続けた信長は、実際にもこのように考えていたのかもしれないと感じるほど、面白い着想だと思う。
    信長、松永久秀、明智光秀など、このように物事を見て考えて突き詰めていく様に、非常に引き込まれる。
    最後の本能寺の変は少し駆け足で、もっとじっくり描いて欲しかった気もしするが…。

    実はこの作品で個人的に一番印象に残ったのは、明らかにフィクションだろうが、働き蟻の実験後に信長が頭の中を整理しきれずに思いをぶつけた際の、帰蝶の言葉だ。それでも信長は、突き詰めて生きたんだな、と改めて思う。

  • とてもおもしろかった。

    ほとんどの家臣が弟側につく人望のなさなのに、実父や岳父には見込まれる。
    気性が荒く、容赦のない反面、命をかけて救援におもむいたりもする。

    かんたんにつかみきれない、信長の複雑な内面。
    独自の理や心理を掘り下げることで、既成概念にとらわれない信長の言動の、背景を浮かび上がらせていく。
    人物の圧倒的な存在感。

    信長だけでなく、まわりの人間も同様。
    それぞれの思考に説得力があり、すべての出来事が必然に思えてくる。

    働き蟻の法則が、物語全体にいきていて、読み応えがあった。

    『光秀の定理』とはシリーズ?

  • 幼少期に蟻の動きからパレートの法則を捉え、実証まで行い確信にいたる執念深さ。
    すべての悲劇はここにあったのではないだろうか。
    常に2:6:2を意識し部隊を精錬する様は理想とストイックさが垣間見える。

    無慈悲さがイメージの信長であったが適材適所に努め、リーダーとして全体最適を常に考え行動していたようだ。
    冷徹さは徹底したシステマチックさと効率性の追求にあるのではと思った。

    終盤にかけて光秀を追い込む信長の狂気、頭の良すぎる光秀の様々なシミュレーション、意図せぬ和歌の解釈と優秀過ぎる光秀の部下たち。
    光秀本人は逡巡した挙句ベターな策を講じようとした矢先、時既に遅し。歴史は動いてしまった。怒涛の展開に読む手が止まらなかった。

    信長が果てる間際に件の法則から光秀の裏切りに心底驚き、目をかけていた側近中の側近が何故との疑問もすべては自分の蒔いた種と悟る姿。
    すべてを悲観的にとらえ完全に憎みきれないまま破滅へ進んだ光秀。
    ほんの少しのズレがこうも大きな結果をもたらす。
    何かが起きる時とは案外こんな読み違えからなのかと感じた。

  • 読み応えがあった。
    信長は勿論、藤吉郎、柴田勝家、佐久間信盛、など、そして明智光秀の視点からの語りもあり、物語が進む。

    なかなか興味深い物語の展開だったし、明智光秀の謀反までの流れも説得力があった。

    集団をまとめる時、人の考えをどれだけ読んだとて、結局はその通りにいかないもんだ。

    あと、信長の思い描く世界で、いろんな人が徐々に首を絞められていった感じがすごい伝わった。


    2019.12.1
    172

  • 前に読んだ「光秀の定理」と今回の「信長の原理 」が、まるで
    パズルがピッタリはまったように、合わさり当時の勢力分布図が完成した

    それにしても、息が詰まるような心情小説だった

    信長は、長年仕えてきた将や家臣を『働き蟻の法則 』に従い、今力を落としてきたのは誰かを見、力を落としてきたと思いきや信長の匙加減ひとつと気分次第で、いつでもその地位をすげ替え、家中から追放したり、切腹させる
    信長にとっては、家臣たちは覇権争いのための一つのコマに過ぎなかった

    佐久間信盛、丹羽長秀、柴田勝家、滝川一益、羽柴秀吉、明智光秀は、織田家の中の自分の位置づけを考え、他者分析をする

    織田家で将としての資質を常に競わされ、前歴を問わない実力本位の激烈な競争原理によって死ぬまで生き残り合戦をさせられる
    そして、自分たちが信長にとっては、ただのコマに過ぎないのだと気づいていく

    本能寺の変に至るまでの光秀の苦悩、明智家の家老の苦悩は、読んでいて胸が締め付けられるような思いがした

    「 本能寺の変 」は、起こるべくして起こったのだと納得した

    202p〜218pの信長に命じられて秀吉と家臣が行った蟻の実験は、興味深かった

  • 戦国エンターテインメント小説として楽しめました。
    信長作品独特のヒリヒリした感じが伝わって来て読み応えも十分。そこはさすが垣根涼介って感じでした。

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著者プロフィール

1966年長崎県生まれ。筑波大学卒業。2000年『午前三時のルースター』でサントリーミステリー大賞と読者賞をダブル受賞。04年『ワイルド・ソウル』で、大藪春彦賞、吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞の史上初となる3冠受賞。その後も05年『君たちに明日はない』で山本周五郎賞、16年『室町無頼』で「本屋が選ぶ時代小説大賞」を受賞。その他の著書に『ヒート アイランド』『ギャングスター・レッスン』『サウダージ』『クレイジーヘヴン』『ゆりかごで眠れ』『真夏の島に咲く花は』『光秀の定理』などがある。

「2020年 『信長の原理 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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