雪つもりし朝 二・二六の人々

著者 : 植松三十里
  • KADOKAWA (2017年2月4日発売)
4.00
  • (5)
  • (11)
  • (5)
  • (0)
  • (0)
  • 本棚登録 :42
  • レビュー :9
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041052129

作品紹介

作家である「私」は、国立新美術館を訪れた。そこで不思議な軍服姿の男を見かけたのだが、その姿はかき消えてしまう。「私」は、美術館の建物が、一九三六年に起こった、大きな歴史上のクーデター事件である「二・二六事件」ゆかりであることに思いを馳せる。

 帝都叛乱の二月二十六日、彼らはそれぞれの夜を過ごしていた……。当時の首相だった岡田啓介、侍従長だった鈴木貫太郎と妻のタカ、昭和天皇の実弟・秩父宮、陸軍の歩兵として反乱軍と同じ部隊にいた本多猪四郎、吉田茂の娘であり湯河原で襲撃を受けた麻生和子。五人それぞれの二・二六事件。
日本の平和に関わった彼らの「その後」は、この「二・二六事件」につながっている。史実を題材にした連作短編集。

「身代わり」  義弟が身代わりになり命を落とした首相・岡田啓介は、やがて第二次大戦の終戦に尽力した。
「とどめ」  襲撃された鈴木貫太郎へのとどめを制止したのは、妻のタカだった。彼は終戦内閣の総理となる。
「夜汽車」  叛乱を起こした青年将校らが要と仰いだ秩父宮は、事件直後に弘前から夜汽車で上京した。
「富士山」  襲撃を受けながらも祖父を守った麻生和子は、父・吉田茂の講和条約を助ける存在に。
「逆襲」  何もわからず反乱軍と同じ部隊にいた本多猪四郎は、長い出兵を経て、「ゴジラ」の監督になった。

 やがて戦争に突き進む一九三六年に起こった事件は、現代日本の舵取りについても大きな示唆に富む内容を訴えかけてくる。今の時代だからこその小説がここにある。

雪つもりし朝 二・二六の人々の感想・レビュー・書評

並び替え:

表示形式:

表示件数:

  • ★2017年3月25日読了『雪つもりし朝 2.26の人々』植松三十里著 評価A

    史実と人々のドラマを非常に上手く絡めて、物語を紡いでくれている。上質の小説だと感じた。
    私は、日本史の授業は途中で終わってしまい、受験は世界史、地理だったので、まずこの物語の中心となる2.26事件を復習しておきたい。

    1936(昭和11) 年2月26日 陸軍皇道派の影響を受けた20代の青年将校らが、『昭和維新、尊皇討奸』をスローガンに、政府転覆を図った。
    彼らの指揮下にある陸軍歩兵第一および第三連隊そして、近衛歩兵第三連隊、野戦重砲兵第七連隊の総員1,558人を動員。
    松尾伝蔵総理大臣秘書官、高橋是清大蔵大臣、斎藤實内大臣、渡辺錠太郎教育総監を殺害。そして、鈴木貫太郎侍従長は瀕死の重傷を負った。

    昭和天皇は、このクーデターに対して、激しく憤り、終始厳しい態度で臨んだ。しかし、陸軍内部では、青年将校をかばう風潮さえあり、結局、首謀者たちは処刑されたが、その後は陸軍統制派が力を得て、日中戦争、太平洋戦争へ突き進むこととなる。

    この作品では、短編5編が、2.26事件をめぐる人々のドラマを描く。

    第一章 身代わり 見つからずに、義弟松尾伝蔵を身代わりとして生き延びることができた岡田啓介首相の襲撃された夜のエピソード

    第二章 とどめ  鈴木貫太郎侍従長を襲った安藤輝三率いる部隊は、鈴木のとどめをささずに去った。おかげで鈴木は命拾いをする。そして、同じく命拾いをした岡田啓介の誘いで、終戦の幕引きをする首相となる。
    また、鈴木の妻タカも、元天皇と秩父宮の養育係として、10年間働いていたことから天皇と国の行く末そして大役を引き受けることになった夫、貫太郎を気づかう。

    第三章 夜汽車 元陸軍歩兵第三連隊にいた天皇の弟、秩父宮は、弘前に居て、事件の発生を知る。急ぎ上京した彼は、好むと好まざるにかかわらず、自分が巻き込まれていく危険な運命の渦中にいることを知る。
    そして、昭和天皇との会見後、彼の判断で元部下たちへ個人として動いたこととは?
    また、特に親しかった部下安藤輝三が、なぜこのクーデターに加わったのかが秩父宮は、理解できずに苦しむ。

    第四章 富士山 明治の元勲、大久保利通の息子の牧野伸顕は湯河原で湯治をしていたその日、クーデターの一派に襲われた。
    吉田茂の妻、牧野の娘である雪子の子、和子がその日ともに湯河原にいたために、彼女の機転に牧野伸顕は助けられて命を拾っていた。

    そして、和子は、九州の麻生財閥の多賀吉に嫁いだ。
    さらに、麻生太郎を生んでなお、吉田茂首相のファーストレディとして、外交の第一線で日本のために頑張った。
    サンフランシスコ講和条約、日米安全保障条約なども縁の下の力持ちとして、白洲三郎らとともに外交戦争を戦った。

    第五章 逆襲 映画ゴジラの監督として有名な本多猪四郎は、2.26事件の時には、居残り部隊として青山に駐屯していた。
    しかし、その部隊所属記録ゆえに日中戦争で3回も召集をかけられて、中国の最前線で戦わねばならなかった。
    戦後、九死に一生を得て帰国すると、彼の続く緊張、見えない恐怖という戦争体験、帰国後目の当たりにした広島の原爆被害をもとに、映画ゴジラを製作した。

  • 2017/9/7
    またいい本に巡り会えました。
    第二次大戦に突入の鍵となった2.26事件を何人かの人の視点で短編のように書かれた話
    ほぼ事実を追っているので、戦争の起こった直接の原因とかしらない私には、勉強になった。
    今までさっと名前くらいは知っていて、なんで止められなかったんだろうと歯がゆく思っていた人もそれぞれいろんな葛藤のなかで生きていたんだなと知りました。
    これをきっかけにもっと真実を知ろうと思う。

  • 2・26。積極的にかかわった人ではないが関係した人。その後。

  • 「私」は国立新美術館で軍服姿の不思議な男を見かけた。この地は、「二・二六事件」ゆかりである-。首相・岡田啓介、侍従長鈴木貫太郎と妻のタカ、昭和天皇実弟・秩父宮…。日本の平和へと繫がる、彼らの「この日」の物語。

    世界史受験だったため日本史には詳しくないせいか、本作はどこまでが史実でどこからがフィクションかわからなかったけれど、一つ一つの物語がしっかり描かれていて惹きこまれた。特に秩父宮と本多猪四郎の話が印象的だった。第二次大戦を意識するこの時期に上質な反戦文学に触れられてよかった。
    (A)

  • 2・26事件に絡む人物についての短篇が5つ.岡田啓介,鈴木貫太郎,秩父宮,吉田茂,本多猪四郎が出てくる.鈴木貫太郎はこれまであまり良い感触を持っていなかったが,妻のタカが皇室と深い関係を持っていたから終戦時の首相に天皇自身が推挙したという話.納得できる面もある.吉田茂の話も面白かった.麻生太郎が出てくる.この事件も皇道派と統制派の確執が原因だということだが,このように関わった人物で解き明かす方法も事件自体の理解につながるような感じがする.楽しめた.

  • 二・二六事件を経験した主人公の五章からなる短編集。あの事件は、いったい何だったのか?その事件を経験した者のそれぞれの生きざまが、真摯に描かれていると感じた。

  • 二二六事件を少し勉強したので読んでみた。
    事件について詳しく知らなくても読ませる本。
    オムニバス形式。事件の当事者や同時代の人、間接的にかかわった人など。
    面白かったです。

  • 岡田啓介や鈴木貫太郎など、2・26事件に巻き込まれた人々を描いた連作短編集。出だしがオカルトチックで「おやっ?」と思ったが、植松作品にハズレなし。緊迫した命のやり取りにハラハラし、家族の親愛あふれるやり取りに涙ハラハラ。そして、最後は2・26事件と「ゴジラ」との意外なつながりまで明らかに。またいいものを読んでしまった。

  • 2017.3.14.

全9件中 1 - 9件を表示

雪つもりし朝 二・二六の人々のその他の作品

植松三十里の作品

雪つもりし朝 二・二六の人々はこんな本です

ツイートする